多段抽出法

多段抽出法|マーケティング調査を効率化する

マーケティングにおける調査には、精度を高めようとするとコストが膨らむという性質があるため、マーケターはときに妥協が求められます。

しかし、多段抽出法なら、コスト安にある程度の精度を出すことができます。

多段抽出法とはどのような手法なのか、分かりやすく解説します。

多段抽出法は標本調査の一種。標本とは?

多段抽出法は統計の手法で、標本調査の一種です。標本というと昆虫や植物を思い出すかもしれませんが、統計にも標本があり、標本調査とは、調査対象から標本を抽出して調べる手法です。

標本調査は、全数調査と逆の調査といえるもの。

例えば、全数調査は、調査対象のすべてを調べるのに対して、標本調査は、調査対象の一部しか調べません。

また、全数調査はより正確な結果を導き出すことができるものの手間がかかるのに対し、標本調査は手間がかからないものの正確さで劣ります。

調査において正確さが欠けることは致命的であると感じるかもしれませんが、一概にそうとはいえません。

「標本調査でもそこそこの精度を出せるだろう」という前提があれば、標本調査を採用すれば手間もコストもかかりません。

そしてマーケティング調査では意外に、標本調査で十分というケースが多くあります。

例えば、何回か全数調査を行ってきて大まかな傾向がつかめているとき、「次回からは標本調査で十分だろう」と判断できることがあります。

また、全体の傾向を知る必要がないときも、標本調査は便利です。「30代の独身男性の休日のすごし方を調べたい」という調査では、全体の傾向をつかむより、個別具体的な事例を知ることが重要になります。このようなとき、標本調査が適しています。

多段抽出法とは

多段抽出法は、調査対象の母集団をいくつかのグループにわけ、それぞれのグループ内でまたグループにわける、という抽出作業を繰り返す手法のこと。3段以上抽出することを多段、2段から抽出するときは2段抽出法と呼びます。

例えば、「日本から市町村を抽出する」のが1段目、「各市町村から地区を抽出する」のが2段目、「各地区から世帯を抽出する」のが3段目となります。

無作為抽出で欠点を補う

多段抽出法には、抽出されなかった対象のことはわからない、という欠点があります。

この欠点を少しでも補うために、無作為抽出を行う必要があります。つまり、任意に、意図を持たず、バラバラに、適当に抽出していきます。

多段抽出法は全国調査に向いている

多段抽出法が適しているのは、企業のマーケティング調査で、日本全国の傾向を知りたくなったとき。

例を挙げて解説していきます。

1億2,000万人を調べなくても17,410人を調べればわかる

全国の傾向を知る究極の手段は1億2,000万人を調査することですが、これは政府でも無理です。つまり全国調査では全数調査は行なえません。

そこで次のように多段抽出していきます。

●母集団を日本全国とする(全国の傾向を知りたい)

●全国から都道府県を抽出する

●都道府県から市区町村を抽出する

●市区町村のなかから住民を無作為に10人抽出する

日本には1,718の市町村と23区があるので、それぞれから10人ずつ抽出しても、17,410人を調べれば調査が完了します。

1億2,000万人調査より17,410人調査のほうが、はるかに手間がかからずコスト安にすみます。しかし、それでほぼ同じ結果が得られると期待することができます。

これが多段抽出法の最大のメリットです。

10人で何がわかるのか

ある市の特徴を調べるとき、10人の市民を調査しただけで十分でしょうか。

もちろん十分ではありません。

では、日本全国の傾向を調べるのに、市区町村から10人を抽出しただけの調査で大丈夫なのでしょうか。

答えは「大丈夫」です。

なぜなら、日本全国を対象にした調査においては、各市区町村の特徴は大体のことがわかればよいからです。1つひとつの市区町村のことを詳しく把握する必要はありません。

1,741市区町村対象の17,410人調査では、千代田区と中央区の違いはよくわからないでしょう。また、札幌市と小樽市(札幌市の隣接市)の違いもわからないかもしれません。

しかし「千代田区と中央区」と「札幌市と小樽市」の違いは鮮明に現れるはずです。

日本全国調査は、大まかな違いがわかればよいので、多段抽出法でよいと判断できます。

NHKは2段抽出法を採用している

NHKはさまざまな世論調査を行っていますが、このとき多段抽出法の一種である2段抽出法を使っています。

1段目で、47都道府県を13ブロックにわけます。

13ブロックは、都市規模と産業別就業人口構成比が均等になるようにしたものであり、各ブロックから300調査地点を抽出して、1調査地点に1人の調査員を配置しています。

2段目は、1調査地点から12人の住民(調査相手)を抽出。

つまり、NHKは、300人の調査員で3,600人(=300人×12人)の国民(住民)を調査して、それを「世論」としてニュースで紹介していることになります。

3,600人を世論として大丈夫なのか、という疑問を抱く人もいるかもしれませんが、その疑問に対して、NHKは2段抽出法のメリットを次のように述べています(*1)。

「統計理論にのっとった調査相手を抽出しているので、回答結果の誤差範囲を推定することができる」

誤差は最小±0.7%から最大±1.7%であり、これなら「3,600人=世論」といえると判断しているのです。

*1:https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron/nhk/process/sampling.html

多段抽出法を信頼できる根拠と限界

NHKだけでなく、テレビの視聴率を調査しているビデオリサーチも多段抽出法を使っています。

NHKの世論調査の影響力はすさまじく、ときに株価を動かし、政局を揺るがすことすらあります。また、数十年前の世論調査結果を参考にすることもあるので、歴史的な価値も持ちます。

ビデオリサーチが公表する視聴率は、広告業界に多大な影響力を持っていますが、日本の広告業界の市場規模は6兆円にのぼるので、視聴率も経済の重要指標ともなるもの。

もし、世論調査や視聴率調査で使われている調査方法が信頼できないものであれば、日本中が混乱するでしょう。そのため、NHKもビデオリサーチも、信頼できる手法しか使わない、つまり、世論調査と視聴率調査で使われている多段抽出法は信頼できる、ということができます。

ただ、多段抽出法には限界があることにも注意しなければなりません。

抽出して調べている以上、抽出から漏れた対象は調査対象外になります。しかし、調査対象外の人たちも、世論をつくり視聴率に影響を与えています。

そのため世論調査の結果が実態と合わなかったり、視聴率の数値に納得できない人が現れたりすることがあります。

まとめ~マーケターの武器になる

広い範囲を調査するとき、多段抽出法はマーケターの強力な武器になるはずです。

正確さでは全数調査にかないませんが、そこまでの正確さが必要なケースはむしろ例外です。

そして正確さに劣るといっても、正しく多段抽出法を実施すれば、統計学上問題がないといえる結果を得ることができます。

多段抽出法はコスト安に実施できるので、ぜひ活用してみてください。

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<参考>

標本調査とは?

広域行政・市町村合併

世論調査の手順

多段抽出

「2020年 日本の広告費」解説──コロナ禍で9年ぶりのマイナス成長。下期は底堅く回復基調に