共分散構造分析

マーケターは「共分散構造分析」で仮説を疑おう

「リピーターを増やすには顧客のロイヤリティを高めなければならない」

多くのマーケターがこの説を信じ、顧客が自社製品を心から愛するような策を講じています。

しかし、この説は正しいのでしょうか。マーケターが顧客のロイヤリティに注目するのは、マーケティングの教科書にそのように書いてあったからではないでしょうか。

もしマーケティングの教科書が間違っていたら、顧客のロイヤリティを高めるキャンペーンは無駄になってしまいます。

マーケティングの成果が出ていないマーケターは、いったん立ち止まって、自分が持っている常識を疑ってみたほうがよいかもしれません。

ある関係における仮説を検証することを共分散構造分析といいますが、マーケターがこの分析をすれば、確度が高いマーケティングを実施できるようになるかもしれません。

マーケティングの罠

「マーケティングの神様」や「マーケティングの王道」「マーケティングの成功事例」など、この領域には「こうすべきだ論」が多く存在します。

商品の販売が低迷すると、マーケティング至上主義者が現れて「マーケティングがなっていない」と指摘して、「理論のとおりに進めるように」指示される――こんな経験をしたマーケターもいるのではないでしょうか。

しかし、絶対に勝てる投資がないように、絶対に商品の販売数を増やすことができるマーケティングは存在しません。

では、マーケティングを勉強しなくてよいのかというと、もちろんそうではありません。

マーケティングの概念は膨らみながら深化していて、今や「ビジネス=マーケティング」といってもよいくらい、どの仕事に就いている人にも必要な知識になっています。

マーケターがすべきことは、マーケティングの教科書が提示していることは仮説にすぎないと考え、それを鵜呑みせず、自社や自分が担当する商品にマッチした手法を探したり、アレンジしたりすること。

マーケティングの罠にはまらないようにするには、仮説を疑うことが大切ですが、疑う方法の1つが、共分散構造分析の実施というわけです。

まず因果関係と相関関係の違いを理解する

共分散構造分析を理解するには、因果関係と相関関係の違いを知っておく必要があります。

因果関係と相関関係の違いを説明するときによく用いられるのが、「朝になると太陽が東の空に浮かぶ」事象です。

朝と東の太陽は、相関関係はありますが、因果関係はありません。

相関関係とは、一方が起きれば高い確率で他方が起きる関係のことであり、因果関係とは、一方が原因となって他方が起きる関係のこと。

日本に住んでいると、朝と呼ばれる時間帯になるとかなり高い確率で太陽が東の空に現れるので、この2つの事象は相関関係がある、といえます。そして、太陽は、朝になったから東の空に現れるのではありません。したがってこの2つには因果関係はありません。

ちなみに東の空の太陽と因果関係を有するのは、地球の自転です。地球がクルクル回っているので、地球の上に居る人には、太陽が東から登って西に沈むようにみえるわけです。

相関関係を無批判に「因果関係である」と信じると判断を誤る

相関関係と因果関係はよく似ています。そのため平時は、この2つを混同していてもほとんど問題が起きません。

つまり、「朝になるから太陽が東から昇ってくるんだ(両者には因果関係があるんだ)」と思っていても間違いは起きません。

しかし、トラブルが起きて前提条件が崩れると、ある相関関係には因果関係がなかったことが露呈することがあります。

例えば日本人が冬のアラスカに行けば、朝になってもなかなか太陽が現れないと感じるでしょう。

もし日本人が冬のアラスカに行っても、朝と東の太陽の間に因果関係があると思い続けてしまうと、「アラスカでは朝が昼ごろにやってくる」といったおかしな理解をすることになるでしょう。

マーケティングでも同じことがいえます。

例えば、顧客主義を貫いて顧客のために尽くしても一向に売上が伸びなかった会社が、顧客より従業員を大切にすることにして業績を回復させた、といったことが起きています。

従来の説を否定したことで成功した事例は枚挙にいとまがないでしょう。

相関関係が観察できたとき、直感的に「因果関係もあるはずだ」と思ってしまう癖をあらためると、マーケティングの罠から抜け出ることができます。

共分散構造分析の定義

共分散構造分析は、多変量解析という分析手法の1つです。

多変量解析とは、ある関係が多数の因子(変数)で生じているとき、その複数の変数の間に因果関係があると仮説を立て、その仮説の確度(因果関係の強さ)を明らかにする調査のこと。

先ほどの朝と東の太陽の関係を使って多変量解析を説明するとこのようになります。

「朝と東の太陽には因果関係がある」と仮説を立てて、朝の現象と太陽が東の空に現れる現象を調査したところ、朝は時間によって生じ、太陽の出現は地球の自転によって生じることがわかったことから両者には因果関係はない、と判断できます。

多変量解析には、目的変数と説明変数の因果関係を明らかにする手法と、被験者に質問してその答えから類似度などを明らかにする手法があり、共分散構造分析は後者になります。

共分散構造分析の使い方:なぜリピーターとロイヤリティには因果関係があるといえるのか

マーケティングの教科書は、企業がリピーターを増やしたいのであれば顧客のロイヤリティを高めよ、と教えています。

この説は、さまざまな企業による数々の実践から正であると考えられます。つまり結論は、リピーターの増加とロイヤリティの強化には因果関係があるといえます。

ただここでは、リピーターとロイヤリティの関係性をまだ仮説としておきます。

そして、この仮説を、共分散構造分析を使って検証していきます。

パス図とパス係数

共分散構造分析ではパス図とパス係数を使います。

パス図は例えば以下のように描きます。

リピーターロイヤリティ

ここでは「ロイヤリティが高いとリピーターが増える」ことの関係性を分析するので、矢印はロイヤリティからリピーターに向かっています。

パス係数は2つの関係性の強さを数値化したもので、最大値は1です。

もしリピーターとロイヤリティの因果関係が相当強いことがわかったら、パス図にパス係数をこのように書き込みます。

リピーター←0.9ロイヤリティ

このパス係数は「仮」です。正確なパス係数は、アンケート調査や顧客データなどから導き出します。

最大値が1なので0.9は相当大きな数といえ、上記のパス図は「両者の相関関係は相当強い」ことを意味しています。

リピーターはなぜ増えるのか、ロイヤリティはなぜ高まるのか

続いて、対象物であるリピーターとロイヤリティの調査に取りかかります。

これもパス図とパス係数を使って表記してみます。

以下のパス係数もすべて「仮」です。

このパス図は次のことを示しています。

●店が顧客の家に近いことはリピーターづくりに貢献している(0.7)が、それよりも価格の適正さが重要(0.8)である

●ロイヤリティはブランドづくりに貢献する(0.7)が、それよりも満足度を高めるのに効果的(0.8)である

この2つのパス図に、先ほどつくった「リピーター←ロイヤリティ」のパス図を合体させるとこのようになります。

このパス係数は仮ですが、仮に上記のような結果になったら、「リピーターとロイヤリティ」の関係性は、その他のどの関係性より強いことが証明されたことになります。

したがって、ロイヤリティを高めるとリピーターが増える現象は因果関係があるといえるので、リピーターを増やしたいマーケターは、顧客のロイヤリティを高めるキャンペーンを打つ必要がある、とわかります。

まとめ~今の説を疑えば新説が生まれる

マーケティングの教科書を読むことは大切なことですが、マーケティングの神様の説に現実を合わせようとすると、「セオリーとおりやっているのに成果が出ない」こともあります。

共分散構造分析は常識と思われている説を検証するツールです。

「セオリーとおりやっているのになぜ成果が出ないのか」と思ったら、いったん立ち止まって因果関係の強さを調べてみてください。

あるケースで強かった関係性が、別のケースでは弱まることがある。それがわかれば、新しい仮説を立て、次に進むことができるでしょう。

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