若者の腕時計離れが顕在化しています。
大手メーカーのセイコーウォッチは「若年層を中心に腕時計を着用している人は少なくなっている」と感じ、腕時計に関する調査では「いつも腕時計をしている人」が半分以下であるという結果も。
そこで、若者の腕時計離れが進む理由やその実態について、詳しく調べてみました。
メーカーの対策についても紹介します。
腕時計業界の動きは、「○○離れ」対策を講じようとしているマーケターのヒントになるでしょう。
腕時計離れの実態
若者の腕時計離れには「エビデンス(証拠、根拠)」があります。
腕時計の大手メーカー、セイコーウォッチの広報宣伝部の担当者が2019年に、あるサイトのインタビューで、若者の腕時計離れの傾向が顕在化している、と明言。
また、調査サイト「DIMSDRIVE」が2018年に行なった「腕時計に関するアンケート」では、「外出するときにいつも腕時計をつけている人」は43.7%と、半数を大きく割り込み、仕事のときに腕時計をする人は23.7%にすぎませんでした。
つまり、7割強がビジネスシーンで腕時計を必要とせず、そもそも腕時計を持っていない人が18.8%にもなるのです。
DIMSDRIVEの調査は、全年代を対象としたものであることから、腕時計離れは若者に限った現象ではない、といえます。
一般財団法人日本時計協会によると、日本製のウォッチ完成品総出荷は輸出と国内出荷を合わせて次のように推移しています。ちなみに「ウォッチ」とは「どのような姿勢でも作動して、かつ携帯することを目的とした時計」と定義されるものです。
2014年6,830万個
2015年6,870万個(前年比0.6%増)
2016年6,770万個(前年比1.5%減)
2017年6,570万個(前年比3.0%減)
2018年6,390万個(前年比2.7%減)
このことから分かるように、2015年に前年を上回ったものの、2016年から3年連続で前年割れとなっています。
こうしたエビデンスから、若者の腕時計離れは「事実」であり、まさに「今そこにある危機」といえるでしょう。
若者が腕時計から離れた理由
セイコーウォッチは、若者が腕時計から離れた原因を次のように分析しています。
- 時計機能を搭載した、スマホなどのデジタル端末が普及した
- デジタル端末にお金を使うようになり、腕時計に使うお金が少なくなっている
- 若者のなかには「腕に時計をつける感覚」を知らない人がいる
この分析を「意訳」すると、次のようになります。
- ライバルが出現した
- ライバルに魅力があり、予算がそちらに回ってしまう
- そもそも利便性を知らない
この「意訳」は、多くの「○○離れ」現象と似ていることがわかります。
例えば若者の新聞離れも相当深刻化していますが、こちらもネットニュースというライバルがいて、ネットニュースが無料なのに対し、新聞は有料という特徴があります。
また、予算をかけられないという点では、若者の自動車離れもそれに当てはまります。自動車への憧れはあるものの、数百万円も出費する余裕がありません。また、シェアエコノミーの広がりにより、「自動車を借りる」ことが「自動車所有」のライバルになっています。
「○○離れ」は、多くの業界の頭痛の種になっているはずです。そして「○○離れ」の原因が、「ライバル」「予算」「利便性の低下」であれば、次の章で紹介する、腕時計業界での「若者対策」は、その他の業界のマーケターにも参考になるはずです。
腕時計メーカーの対策
腕時計メーカーの対策を紹介する前に、腕時計業界の「光」を紹介します。
2016年、スイス時計協会が日本の腕時計市場を調査していますが、その結果、次の傾向が明らかになりました。
- 腕時計の購入予算は30万~100万円未満が中心で高価格帯にシフトしている
- 女性の社会進出により購入予算が増額している
- 「ほしい時計であれば高額でも構わず購入する」という傾向が強まっている
- 「ほしいブランド」は1位ロレックス38%、2位オメガ28%、3位カルティエ23%
これらの傾向から、腕時計への憧れはむしろ強まっていて、腕時計業界には、対策を打つ余地が十分にあるといえるでしょう。
セイコーの戦略
セイコーウォッチは、若者の腕時計離れ対策として次のような戦略を打ち出しています。
- 人と違うものを求める志向を反映した商品構成にしている
(手に届く価格でカスタマイズできる腕時計を用意している)
- ブランドストーリーを前面に出すようにしている
(復刻モデルを通じて、自社のストーリーをPRする)
- 高品質でありながらお手頃価格の商品をラインナップする
(ソーラー充電、金属アレルギーが出にくいチタン製ボディなどの導入)
これらの戦略の意図を紹介します。
かつては、腕時計を求める人は「有名人や成功者などがしているもの」を欲しがりました。
しかし、現代は「人が持っていないもの」を求める人が増えています。
それはSNSの普及により情報があふれ、価値観が多様化したためです。
そこでセイコーウォッチは、カスタマイズによって、簡単に「人が持っていない」腕時計を手に入れられるようにしたのです。
また、人々のブランド志向や高級志向は、依然として強いことがわかっています。
しかし、若者は腕時計に振り向ける予算が多くありません。
そこで、セイコーウォッチは自社ストーリーを強調するようにしました。セイコーの腕時計にも、海外メーカーに負けないブランドストーリーがあることを若者が知れば、国産を身につけることに抵抗がなくなるだけでなく、誇らしく思えるようになると考えたのです。
この他、セイコーウォッチは、ソーラー充電やチタン製ボディの導入などによって付加価値を高めることに注力したり、機械式の腕時計を開発することでユーザーの所有欲を高めようと狙っています。
まとめ~「やりよう」は必ずある
若者の腕時計離れの原因を一言で表すと「時代の移り変わり」となるでしょう。
腕時計以外にも魅力的な商品が増えたことで「若者市場」のパイの奪い合いが始まりました。
また、少子化と非正規雇用の増加による賃金低下により、その奪い合いは激化しています。
しかし、若者の深層心理を探ると、やはり腕時計は「とてもほしいもの」です。消費者のほしがる気持ちを、マーケターがくすぐることができれば、勝機も商機も見出せるはずです。
「○○離れ」が起きている業界では、マーケターの腕が試されるというわけです。
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<参考>
- 若者の“腕時計離れ”は本当か?セイコーに直撃した(biz SPA! フレッシュ)
https://bizspa.jp/post-203749/ - 「腕時計」に関するアンケート(ネットリサーチ ディムスドライブ)
http://www.dims.ne.jp/timelyresearch/2018/180618/ - 2018年 日本の時計市場規模(推定)(日本時計協会)
https://www.jcwa.or.jp/data/market-scale.html - 腕時計に関する消費者意識調査 2016(スイス時計協会)
http://www.fhs.jp/file/121/2016_Japan_Consumer_Survey_-_Summary_-_Jpn.pdf