顧客に自社の商品やサービスについて尋ねたり、消費者ニーズを探ったりするユーザーヒアリングは、マーケティングでも営業でも重要な作業の1つです。
しかし、ユーザーヒアリングに失敗する企業も少なくありません。コストをかけてユーザーヒアリングを実施して、その結果を元に製品開発をしたりマーケティング・キャンペーンを展開したりしたのに失敗した、という事例は数多くあるもの。
では、ユーザーヒアリングの結果が当てにならないのかというとそういうわけではなく、正しい方法でユーザーヒアリングを実施すれば、正しい情報が得られるもの。
ユーザーヒアリングを成功させるには、回答者(ユーザー、顧客、消費者)に寄り添うだけでなく、テクニックも必要です。
本記事では、ユーザーヒアリングを成功させるポイントを解説します。
1ランク上のヒアリング術を身につけましょう。
重要なのは方向性、仮説、話しやすさ
ユーザーヒアリングを成功させるには、
- 方向性
- 仮説
- 回答者(ユーザー、顧客、消費者)が話しやすい環境
の3つが必要です。
方向性を決める
ユーザーヒアリングは、顧客に話を聴くもの。
しかし、顧客たちが必ずしも質問者(企業やマーケター)の想定した回答をするわけではありません。ヒアリングをした顧客の中には、質問の意図を理解せず、脈絡のない話をする人もいるでしょう。
この混乱を回避するためには、ユーザーヒアリングの方向性を定めておく必要があります。
方向性とは、調査目的と言い換えることができます。例えば次のとおりです。
- 顧客が今、何を求めているのかを探りたい
- 当社のポジティブな印象、またはネガティブな印象を知りたい
- 自社製品のユーザーが困っていることを知りたい
- 新製品開発のヒントを探りたい
方向性が明確になると、ユーザーヒアリング業務に携わるスタッフたちの仕事にブレがなくなります。そうなると、ユーザーヒアリングで尋ねる質問が適切なものになったり、回答者に寄り添った聴き方ができたり、回答者の話が脱線したときにすぐに修正することが可能となります。
仮説を立てる
ユーザーヒアリングの方向性が決まったら、仮説を立てます。
仮説がどれだけ重要であるかは、仮説を立てずにユーザーヒアリングを実施したときの混乱を想像すると理解しやすいでしょう。
例えば、自社製品のユーザーが困っていることを知るためにユーザーヒアリングを行うことになったとします。このとき、ユーザーヒアリング業務の担当者全員で、「○○だから□□という結果が出るに違いない」と考えてみてください。これが仮説です。
仮説は予想ではありません。
この時重要となるのが「○○だから」の「○○」が事実であること。「○○だから」の「○○」が事実でなければ、仮説は単なる当てずっぽうになってしまいます。
「○○だから」の「○○」のデータの質を高めるには、顧客情報と業界情報を数多く集めることが大切です。
そして、ユーザーヒアリングは、仮説の正しさを証明するため、もしくは、仮説の間違いを証明するために行うものであることから、なぜ「○○」から「□□」を導くことができるのか説明できなければなりません。
話しやすい環境をつくる
3つの準備のうちこれまでに開設した方向性と仮説は、ユーザーヒアリングの実行者(企業)向けの準備です。
そして、3つ目の話しやすい環境づくりは、ユーザーヒアリングを受ける人(回答者)向けの準備です。
次の3人のうち、ユーザーヒアリングの理想の回答者は誰になるでしょうか。
- 正しく回答しようとしているAさん
- 本音を語ろうとしているBさん
- あまりよく考えていないCさん
理想の回答者はCさんです。
AさんとBさんは、ユーザーヒアリングの実施企業の「ため」なろうというバイアスがかかってしまっています。つまり、いわば「企業目線」になってしまっている状態です。企業目線のコメントなら、社内で拾うことができるため、AさんとBさんへのヒアリングはあまり重要ではないといえるでしょう。
一方、企業目線のないCさんなら、本当に正しい本音を語ってくれる可能性が高くなります。
しかし、Cさんから本音を引き出すことは苦労するでしょう。そこで重要となるのが、Cさんが話しやすい環境をつくることとなります。
ラポールを築く
ユーザーヒアリングにおいて「ラポール」という用語が注目されていますが、ラポールとは心理学で「信頼関係」という意味で用いられる用語。
ユーザーヒアリングの成否は、回答者とラポールを築くことができるかどうかにかかっています。
質問の順番を工夫する
ユーザーヒアリングの回答者に、いきなり「何歳ですか」と尋ねるのはよい方法ではありません。「無礼な人だ」と思われたら、ラポールは遠のきます。
しかし回答者が「お笑い番組をよく見ますが、第7世代と呼ばれる若手芸人より、明石家さんまさんやダウンタウンさんのほうが好きです」と答えたあとに、「では、ご年齢は40代か50代ですか」と尋ねれば、すんなりと実年齢を言ってくれるかもしれません。
なぜなら、回答者は、実年齢を明かせばお笑いの話で盛り上がるかもしれないと期待するからです。
ユーザーヒアリングでは、質問の内容だけでなく、質問の順番も重要となります。
例えば、回答者に「A社にはよい印象を持っていません」と回答させてしまった後にA社の製品についてヒアリングしても、A社の製品の良さについて語る可能性は低いでしょう。
したがってA社の製品についてヒアリングしたい、という場合には「A社の複数の製品についての感想を尋ねる」→「A社の印象について尋ねる」という順番で質問することが適切であるといえます。
主観と客観をわける
回答者の回答は、主観と客観にわける必要があります。
主観と客観にわけるためには、質問者は、1つの質問の回答を得たことで終わるのではなく「なぜそう思いますか」と尋ねることが大切です。
例えば、次の回答を比べてみてください。
- Bさんの回答:私はA社は好きではありません。なぜならロゴが格好悪いからです。
- Cさんの回答:私はA社は好きではありません。なぜならリコールが多発しているからです。
BさんもCさんも、A社を嫌っていますが、Bさんは主観で語り、Cさんは客観的な事実から自分の意見を組み立てています。
Bさんの回答とCさんの回答はまったく内容が異なっているのに、これを「A社を嫌う人が2名いた」とくくってしまったら、ユーザーヒアリングは失敗するでしょう。
「なぜ」で追求するときと追求しないときをわける
回答者と対話するスタッフは「なぜ」を使って追求するときと、「なぜ」を一切使わないときをわけたほうがよいでしょう。
「なぜ」という質問は、相手に気づきを与えるもの。
「A社が好きではない」と答えた人に「なぜ」と問うと、「なぜ私はA社が好きではないだろうか」と考えてもらうことができます。そして「ロゴがなんか苦手だから」など、意見を深堀していくこととなります。
しかし、「なぜ」を使った質問は、相手に少なからずプレッシャーとストレスを与えるもの。
「A社は嫌いだ」と答えた人に「なぜ」と尋ねると、その人は「理由なんてない、嫌いなものは嫌いだ」と不快に思うかもしれません。
これでは到底、話しやすい環境になりませんし、ラポールでもありません。
「なぜ」を使わなくても、相手の本音に近づく方法として、相手が言ったことを繰り返すミラーリングがあります。
ミラーリングとは、回答者が「私はA社は好きではありません」と答えたら、質問者が「なるほど、A社が好きではないのですね」と返す、というもの。
ミラーリングすると、相手は共感してもらえたと感じるため、リラックスすることができます。
ミラーリングは、相手が言ったことを繰り返すだけなので、会話は進みませんが、ミラーリングによって、次に口を開くのは相手となることから、相手は会話を進めようとして、自分から「なぜA社を好きになれないのかというと~」と理由を説明し始めます。
必ず聴き取らなければならない質問については「なぜ、なぜ」で深掘りしていき、それほど重要ではない質問ではミラーリングや協調や同意などで深掘りしていくといいでしょう。
まとめ
ユーザーヒアリングにおいて、回答者(顧客、ユーザー、消費者)は自由な立場にあることから、本音を答えることも、取り繕うことも、嘘をつくことすら可能です。
ユーザーヒアリングは、多くの本音を掘り当てることができたときに成功し、取り繕った回答や嘘の回答が増えると失敗します。
顧客は、ただ尋ねるだけでは本音を答えてくれないもの。
ユーザーヒアリングはノウハウのかたまりで、回答者の本音を引き出す方法はたくさんあります。
方向性、仮説、話しやすい環境、ラポール、「なぜ」の使い方、などを1つずつ試して自分なりのノウハウを構築していきましょう。
<参考>