「新しいサービス」の開発は、競争力を高めるために必要なこと。
しかし、新サービスの開発は簡単ではありません。
「新しいだけ」のサービスならいくらでも開発できますが、時間と労力をかけて新サービスを開発する以上、コストを回収できなければなりません。また、新サービスをつくるのであれば、経営の安定化につながる、会社の柱となる事業に育てたいものです。
「新サービス」とは、世の中になかったものを生み出すことだけではありません。
この記事では、既存のサービスをベースにして消費者を驚かせる新サービスをつくる方法について紹介していきます。
新サービスと既存サービスの関係
「既存サービスをベースにする」と聞くと、「模倣」や「焼き回し」、「パクり」といった、ネガティブな印象を持つかもしれません。
しかし、世の中の新サービスと呼ばれている優れたサービスの多くは、既存サービスをベースにしています。
もちろん、既存サービスを少しいじったくらいでは、新サービスにはならないため、「相当な努力と苦労」は必要です。
新サービス開発のポイント
既存サービスをベースにして新サービスを生み出すための「努力と苦労」とは、次の4点です。
- 既存サービスが陳腐化した理由を徹底的に調査する
- アイデアを出し尽くす
- 開発可能かどうか検討する
- 顧客がつくかどうか検討する
1つずつみていきましょう。
既存サービスの徹底的な調査
既存サービスをベースにする場合、既存サービスの欠点を新サービスに持ち込まないようにしなければなりません。そのためには、欠点をすべて洗い出す必要があります。
欠点を洗い出す方法として、既存サービスから離反したかつての顧客にアンケートをしたり、ライバル会社のサービスと比べて、自社の既存サービスが劣る点を探るのも有効です。
アイデアを出し尽くす
既存サービスをベースにしてつくる新サービスであっても、既存サービスを下地にしていることが、顧客に悟られないほど変化を加えたいものです。
そのためには、新サービス開発チームの全員が、徹底的にアイデアを出さなければなりません。
新サービス開発チームには業務経験が浅い社員も加えて、自由に発言できるようにしておくといいでしょう。
若い社員が出すアイデアは、拙かったり、完成度が低かったり、実現可能性が低かったりするかもしれませんが、鮮度が高ければそれだけで検討に値します。
開発可能かどうか検討する
アイデアが出そろったら、開発の可能性を考えていきます。
このとき、すべてのアイデアについて「可能か」「不可能か」ではなく、「可能か」「何があれば可能になるか」を検討していきましょう。
誰もがそれをやれば成功するとわかっていながら、実現できないと思わせる要素があったために試すものがいなかった、というアイデアを捨ててはいけません。
なぜなら、「到底不可能だ」と思わせるアイデアほど、新サービスに相応しいからです。
例えば、あるアイデアに対して「何があれば可能になるか」を検討した結果、コストを度外視して準備すれば実現できる、という結果が出たとします。
このとき、それだけのコストを賄うことはできないから実現不可能と、安易に決めないようにしましょう。
コストが問題なら、どこまでコストを削れるのか検討しましょう。
なぜなら、ライバル会社は、コストを削れないと判断したから、そのアイデアを実行しなかったのかもしれないからです。
そうであれば、コストダウンを実現すれば、ヒットする新サービスに化ける可能性があります。
顧客がつくかどうか検討する
既存サービスに愛着を持つのは、それを提供している企業だけではありません。
既存サービスの顧客のなかには、「ずっとこのままこのサービスを利用したい」と考えている人もいます。
そのようなロイヤリティが高すぎる顧客は、新サービスを拒絶することがありますが、声が大きい顧客の意見に振り回されないようにすることが大切です。
新サービスの開発事例:ヤフーニュース
ヤフーが運営するヤフーニュースは、既存サービスをベースにしてつくった新サービスの、典型的な成功例といえます。
この画像は、ヤフーのトップページです。
「トラベル」「ヤフオク」「ショッピング」「PayPayモール」「ZOZOTOWN」「LOHACO」など、ヤフー・ビジネスのリンクが多数貼られていて、まさに「ポータル(玄関)」なサイトになっています。
しかし、ここで最も大きな面積を取っているのは、直接的には利益を生まない「ヤフーニュース」です。利益を生まないどころか、ヤフーは、ヤフーニュースに掲載する記事を新聞社や雑誌社などから購入しています。
ヤフーのビジネスモデルは、ネット・ユーザーにネット・サービスを売ってお金を得る形態ですが、ヤフーニュースはお金をかけてサービスを無料配布する形態です。
しかも最近は、ヤフーニュースの記者や契約ライターが独自取材をして、ヤフーニュースに記事を出稿して、無料配信することも。記者を雇用したり、契約ライターに原稿料を支払ったりするため、コストがかかっています。
ヤフーニュースのビジネスモデルはすでにあった
ヤフーが、ヤフーニュースにコストをかけるのは、ニュースをチェックする人を集め、広告を見せるためです。ヤフーニュースの1日当たりのPVは5億に達しますが、これだけ視聴率が高ければ、広告収入はかなりの額になります。
ヤフーの親会社であるZホールディングス株式会社の売上高は、2020年3月期(2019年4月~2020年3月)決算で、創業以降初めて1兆円を超えました。
同社はその要因の1つとして広告売上の増加を挙げています。
マスコミ各社から購入したニュースを自社サイトに掲示して、閲覧者を増やして広告収入を得るビジネスモデルは、ヤフーが開発したものではありません。
ところが、ポータルサイトに購入したニュースを掲載しているライバル会社はいくつかありますが、どれもヤフーニュースほどの成功は収めていません。
つまり、ヤフーだけがニュース・サイトを新サービスにすることができ、ライバル会社はそれができなかったのです。
ヤフーニュース編集部が行った「相当な努力と苦労」とは
ヤフーは、「ニュース・サイトをつくって広告収入を稼ぐ」という既存サービスをベースに新サービスをつくるとき、「相当な努力と苦労」を重ねました。
まず、ヤフーは、ヤフーニュース編集部に本物の新聞記者たちを入れました。
そして、元新聞記者たちは、ニュースの見出しをトップページで確認できるようにしたり、価値あるニュースを選別したりしました。
また、トップページに掲示するニュースの見出しを頻繁に更新したり、ニュースの幅を広げたりしたのです。
新しいニュース配信サービスができあがった
このような地道でコストがかかる取り組みを続けたことで、多くのネット・ユーザーが「ヤフーニュースか、その他のニュース・サイトか」と認識するようになりました。
そして記事を配信しているマスコミは、当初は「ヤフーニュースに記事を提供してあげる」立場でしたが、今は「ヤフーニュースに掲載してもらう」立場に変わりました。
自社の記事を自社の媒体に掲載するより、ヤフーニュースに掲載されたほうがはるかに広く拡散されるようになったからです。
ヤフーニュースが成功するまで、ニュースは新聞社とテレビ局のものでしたが、今は、ヤフーニュースで事件・事故の第一報に接する人が増えています。
もちろんその第一報記事をつくっているのは新聞社やテレビ局などなのですが、多くの人は今「ヤフーニュースでこの事件・事故を知る」のです。
ヤフーニュースは確実に「新しい」ニュースの配信「サービス」といえます。
まとめ
トヨタのプリウスは、ハイブリッド方式で「新しい車」と認知されていますが、これも既存技術をベースにしています。
ハイブリッド方式は、減速で生じるエネルギーを電気に変え、その電気でモーターを回して車を走らせています。減速エネルギーを電気に変えることも、電気でモーターを回して車を走らせることも、昔からある技術です。しかし「減速エネルギーを電気に変えること」と「電気でモーターを回して車を走らせること」をくっつけたのは、トヨタが初めてでした。
ハイブリッドシステムは自動車の在り方を変えると同時に、トヨタの経営の屋台骨を担う技術になりました。
サービス分野でも、ベースとなっている既存サービスの存在がかすむくらいの、画期的な新サービスを生み出せるはずです。
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<参考>
新しい製品とサービスの開発(Ogasahara Solution&Accompany)