新しいビジネス思考として提唱され、経済産業省も企業に推奨している「デザインシンキング」。
その経済合理性は高く評価され、デザインシンキングはイノベーションの出発点になる、とも指摘されています。
この記事では、さまざまな業界で導入されるデザインシンキングの成功事例について、分かりやすく紹介します。
デザインシンキングの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
トヨタ×富士通
トヨタ自動車(以下、トヨタ)は、富士通のコンサルティングを受けて、デザインシンキングを導入しました。
トヨタのディーラー支援体制の大きな課題
トヨタは、自動車を買った顧客と販売した車を、約5,000店のディーラーと約4万人のスタッフでサポートしています。
このサポート体制で重要になるのが、サービスエンジニアと呼ばれる技術系のスタッフです。
トヨタは、サービスエンジニアが持つ技術力を発揮できるように、サービスエンジニアたちの育成やサービス技術の開発、修理支援を行うサービス技術部を設けています。
その数、300人。
関係会社の500人を合わせると、実に800人になります。
このサービス技術部では、2015年に、全国・全世界のサービスエンジニアたちを育成する「多治見サービスセンター」を開設。
ここは、年間1万人のサービスエンジニアが学びに来る場所で、修理技術を研究開発する拠点でもあります。
トヨタにとって大型投資になるこのプロジェクトには、「どのような新しいことをしていくのか」という課題と、「世界のサービスエンジニアたちに夢をもってもらいたい」という希望がありました。
この課題をクリアして、希望をかなえるために、デザインシンキングを活用することにしたのです。
世界のトヨタに足りなかったもの
トヨタは、世界の生産現場に影響を与えた「カイゼン」を開発した会社です。
「カイゼン」は、現状を理想の状態に近づけるのに有効な手段であり、1を100にするために、現場で利用されます。
しかし、時代は0から100を生み出すイノベーションを求めているため、カイゼンでは対応できなかったのです。
「ありたい姿」を描くビジョンマップ
サービス技術部のデザインシンキングの第一歩は、「ありたい姿」を描くビジョンマップづくりでした。
ここでのポイントは「あるべき姿」ではなく、「ありたい姿」であるということ。
サービス技術部はビジョンマップづくりのワークショップを立ち上げ、検討を重ね、「サービスストールのありたい姿」を探りました。
サービスストールとは、ディーラーのサービス工場にある自動車専用の作業台のこと。
自動車を持ち上げたり、さまざまな点検やチェックができたりする設備がそろっていますが、ワークショップでは「サービスストールに、監視カメラを設置する」というアイデアが提案されました。
サービスストールに監視カメラを設置したことにより、作業の様子を簡単に素早く隅々までチェックできるようになり、これまで2人でやっていた作業が1人で行なえるようになりました。
また、監視カメラが撮影したサービスストール内の動画をWi-Fiで送信し、顧客に見てもらうというアイデアも出され、顧客が、自分の車が整備されていく様子を確認できるようになったのです。
どのように「デザインシンキングした」のか
サービスストールへのカメラの設置は、ワークショップが提案したアイデアの1つにすぎず、これ以外にもさまざまなアイデアが出されました。
それらのいくつかは試作品として、多治見サービスセンターに展示しています。
これらのアイデアは
・観察してテーマを設定する
↓
・テーマの課題を定義する
↓
★アイデアを自由に出す
↓
・部内や部外から、アイデアへの共感を集める
↓
・共感できたアイデアについて共通理解を構築する
↓
試作品をつくる
↓
評価と検証をする
という流れで進められました。
PDCAサイクルを実行している企業やビジネスパーソンであれば、このデザインシンキングの流れに違和感を感じることはないでしょう。
この流れの中で、デザインシンキングがPDCAと決定的に異なる点があります。
それは「★アイデアを自由に出す」という点です。
ワークショップのメンバーは、「新しい発想をするために、いったん日常の業務から離れたほうがよい」と考え、ディーラーのサービス工場ではなく、あえて六本木のオフィスで集まったこともあります。
それくらい「アイデアを出すこと」と「自由さ」を重視したわけです。
トヨタ・サービス技術部の責任者は、デザインシンキングの導入について、次のように語っています。
「デザイン思考が入ったことで、カイゼンにイノベーションを加えることが可能になりました。これによって新しい発想が生まれ、さまざまな可能性が広がっていくと感じています」(*)
*引用:https://www.fujitsu.com/jp/documents/innovation/workstyle/dl-contents/2017/case-study-08/fujitsu_W-01_wp_20170905.pdf
ネット業界とも相性がよい「デザインシンキング」
「新しいアイデア」が勝敗のカギを握るネット業界にも、デザインシンキングの成功事例が「ごろごろ」転がっています。
例えば、音楽配信アプリのSpotify(以下、スポティファイ)と、民泊紹介サイトのAirbnb(以下、エアビーアンドビー)もそれに該当します。
それぞれの事例について見ていきましょう。
スポティファイの事例
音楽ストリーミングサービスは数多くありますが、スポティファイは、その他の音楽ストリーミングサービスと異なるサービスを展開したことで、世界最多2億3,200万人のユーザーを抱えるまでになりました。
スポティファイがデザインシンキングを取り入れたことによって生まれたサービスのひとつが、音楽リストです。
スポティファイの音楽リストには、「気持ちが落ち込む月曜日を元気にする音楽リスト」などがあります。
思いついたアイデアをすぐに試すのがスポティファイの強みであり、その行動の源流はデザインシンキングにあります。
エアビーアンドビーの事例
エアビーアンドビーは、自宅を宿泊施設にしている民泊を紹介している世界最大のサイトです。
今でこそ、「画期的なアイデア」と称賛されていますが、会社を設立してからしばらくは、創業者たちは毎月、自分たちのクレジットカードを利用限度額まで使わなければなりませんでした。
ブレークスルーをもたらしたのは、ある「気付き」です。
その「気付き」とは、「サイトに掲載されている民泊物件の写真が良くない」ということです。
写真が良くなければ、「泊りたい」と思う閲覧者はいません。
それで、エアビーアンドビーの創業者たちは、民泊物件を提供しているオーナーに物件を撮影させてもらったのです。
サイトに掲載されている写真を、見栄えの良い写真に差し替えていったところ、借り手が次々と現れるようになりました。
上記の話をまとめると、こうなります。
「よくない写真では借り手がつかない」→「よい写真に差し替えた」→「借り手がつくようになった」
他の企業が同じことを行なっても、大したことではなかったかもしれませんが、エアビーアンドビーにとっては、パラダイム転換と呼んでよいほどの大発明でした。
まとめ~少なくとも検討しない理由はない
トヨタやスポティファイ、エアビーアンドビーの事例について紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
世界を席巻するような最新の優良サービスは、デザインシンキングによって生み出されたものであり、ビジネスにデザインシンキングを導入することによる効果は大きいといえるでしょう。
ぜひ、自社のビジネスにデザインシンキングの導入を進めてみてください。
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