企業が生み出すものには、プロダクト(製品)とサービスがありますが、それらを開発する際、マーケターは消費者のニーズをとらえ、そのニーズを開発現場に持ち込まなければなりません。
つまり、プロダクト開発には、マーケティングの観点が必要となります。
プロダクト開発のポイントを事例とともに紹介します。
なぜ開発にマーケティング思考が求められるのか
プロダクトを開発するのは、企業のなかの研究所や開発部門の人たち、いわゆる「技術屋」です。
彼らのもつ「技術」はプロダクト開発に重要なものですが、技術屋だけに開発を任せてしまうと、消費者の本心や本音にそぐわないプロダクトができてしまう可能性があります。
消費者の本心や本音にそぐわないプロダクトは、開発しても消費者に受け入れられる可能性が低く、大きなロスを生むでしょう。
そのロスを軽減するためには、マーケティングの観点からプロダクト開発をすることが大切です。

現代のプロダクト開発のポイント
現代のプロダクト開発のポイントは、「必要性」を超えることです。
いまや、身の回りには多くのモノがあふれていて、「あれがないから生活できない」というものはほとんどありません。
したがって、自社のプロダクトを買ってもらうには、消費者に『どうしてもこれがほしい』と思わせるものをつくることを目指させることが大切です。
「ほしいもの」ではなく「ほしいと思わせるもの」をつくる
企業がマーケティングを実施して、顧客が「ほしい」と思っているものを探し当て、それを製品化すれば売れるでしょう。
しかし、マーケティング技術が進化した結果、通常のマーケティングでプロダクトを差別化することが難しくなっています。
団子状態のプロダクト群のなかから頭ひとつ飛び出すには、顧客の「ほしい」という気持ちの上をいく「ほしいと思わせる」モノをつくらなければなりません。
何をつくっている会社かわかりますか
次の3つのプロダクト・コンセプトは、あるメーカーが打ち出したものです。
この会社が、何をつくっているのか想像できるでしょうか。
- 歩いているぐらいに自然に感じられる
- 人の手による細部へのこだわりを感じてほしい
- 家族のように大切にしていただきたい
これは、自動車メーカーのマツダのコンセプトです(*1)。
自動車メーカーには、マツダ以外にもトヨタやホンダ、日産などがあり、それぞれのメーカーが消費者が「欲しい」「必要」とするプロダクト開発を進めていますが、マツダも、消費者に「どうしてもマツダ車がほしい」と思わせるプロダクトづくりに専念しています。
「歩いているぐらいに自然に感じられる」は、自動車づくりのコンセプトとしては奇妙に感じるかもしれません。
なぜなら自動車は、歩行をはるかに上回る移動手段で、歩行より快適であるため、人々は自動車に数百万円のお金を支払うのです。
しかし、マツダの開発者は、人の自然な歩き方を真似れば自動車の運転がより気持ちよくなるに違いない、と考えました(*2)。
そして、注目したのが人がスムーズに歩いているとき、骨盤が立っていること。そこから、運転手の骨盤が立つような自動車を開発することにしました。
マツダのプロダクト開発のポイントは「運転がより気持ちよくなること」です。
なぜなら、「限界領域までの過渡特性をどうコントロールするか」や「すごく高価なパーツ」や「革新的な技術」といった大手が着目している点を追求しても、マツダには勝ち目がないからです(*2)。
消費者に「どうしてもマツダ車がほしい」と思わせる自動車をつくることを突き詰めた結果、人の歩行に行き着いたといえます。
*1:https://www.mazda.co.jp/beadriver/
*2:https://www.mazda.co.jp/beadriver/dynamics/behindstory/01/
パナソニックのプロダクト開発の視点
パナソニックのプロダクト解析センターは、プロダクト開発において次の8つのコンセプトを掲げています(*3)。
- 世界にまだない価値を
- 他社の商品より一歩先に
- キレイを語れる商品に
- タフな商品を目指して
- 誰もが安心できる商品を
- 商品のSOSに迅速対応
- 商品づくりを支える人づくり
- A Better Life, A Better World
これらは、パナソニックが自社のプロダクト開発のために打ち立てたコンセプトですが、どの会社にも通じる普遍的な要素が含まれています。
例えば「世界にまだない価値を」と「他社の商品より一歩先に」は、すべてのプロダクト開発者が胸に秘めておかなければならないものでしょう。
そして「キレイ」「タフ」「安心」の3つのキーワードは、パナソニックが考える「価値」ですが、この部分は、開発陣とマーケターが議論して、自社の価値に置き換えるとよいでしょう。
さらに「A Better Life, A Better World」には、プロダクトを通じて社会貢献しよう、というパナソニックの意気込みが込められています。
プロダクトは消費者に使われるためにつくられるものですが、消費者はよりよい生活を手に入れたくてプロダクトを購入します。つまり消費者は、プロダクトと自分の生活を結びつけています。
社内のプロダクト開発会議では、マーケターは消費者の生活や幸せや世界との関わり(A Better World)についても検討できるとよいでしょう。
*3:https://www.panasonic.com/jp/corporate/pac.html
アプローチは1つひとつ具体的に検討していく
ここまで概念的な事柄について解説してきましたが、プロダクトは具体的なものなので、開発過程では具体的なアプローチが必要になります。
再びパナソニックの事例を紹介します。
パナソニックはプロダクトを開発するとき、次の69項目をチェックしています。
ユーザビリティ | 心地の定量化 | 1 |
身体負担の定量化 | 2 | |
生理生体効果の定量化 | 3 | |
ユニバーサルデザイン評価 | 4 | |
ユーザインタフェース評価 | 5 | |
施工性評価 | 6 | |
現地適合化評価 | 7 | |
感性の定量化 | 8 | |
安全性評価 | 9 | |
省エネ評価 | 10 | |
材料分析 | 形態観察・元素分析 | 11 |
微量成分分析 | 12 | |
腐食 | 13 | |
におい・発生ガス | 14 | |
表面分析 | 15 | |
物性評価 | 16 | |
破断・割れ | 17 | |
電気特性不良 | 18 | |
有機分析 | 19 | |
微小異物 | 20 | |
接合・密着性 | 21 | |
EMC | 試験設備一覧 | 22 |
医療機器のEMC試験 | 23 | |
EMC設計 | 24 | |
光・照明解析 | 25 | |
民生機器のEMC試験 | 26 | |
船舶機器のEMC試験 | 27 | |
EMC対策 | 28 | |
電波伝搬解析 | 29 | |
車載機器のEMC試験 | 30 | |
半導体・LSIのEMC試験 | 31 | |
電磁界解析 | 32 | |
電子回路解析 | 構想設計(回路レビュー) | 33 |
DDR設計 | 34 | |
シミュレーション(SI/PI) | 35 | |
構想設計(相互干渉の回避) | 36 | |
HDMI、USB、LVDS等設計 | 37 | |
基板製造・部品実装 | 38 | |
構想設計(P板コストダウン) | 39 | |
プリント基板設計 | 40 | |
電子回路解析サービス概要はこちら | 41 | |
デバイス創造 | CAE | 42 |
電気安全 | 安全診断 | 43 |
耐トラッキング性試験 | 44 | |
不完全接続安全性試験 | 45 | |
ニードルフレーム試験 | 46 | |
絶縁抵抗試験 | 47 | |
アース線抵抗試験 | 48 | |
安全試験 | 49 | |
電源コードの耐屈曲性試験 | 50 | |
ヒートサイクル(通電サイクル)試験 | 51 | |
UL94燃焼試験 | 52 | |
絶縁耐圧試験 | 53 | |
残留電圧試験 | 54 | |
PTI・CTI測定 | 55 | |
断線スパーク試験 | 56 | |
グローワイヤ試験 | 57 | |
ボールプレッシャー試験 | 58 | |
漏れ電流試験 | 59 | |
短絡試験 | 60 | |
バイオ評価 | 微生物評価・におい評価 | 61 |
信頼性 | 温湿度試験 | 62 |
耐候性試験 | 63 | |
耐腐食性試験 | 64 | |
特殊試験 | 65 | |
ロボット安全 | 66 | |
振動試験 | 67 | |
製品・部品の寿命予測 | 68 | |
リスクアセスメント | 69 |
このように開発における具体的なアプローチを箇条書きにして用意しておくと、概念的で理想論的な議論と具体的な開発方法の検討を、きっちりわけることができます。
開発陣とマーケターは、理想の形を追求したら具体的なアプローチを定めてそれを実行し、実行が軌道に乗ったらより高い理想を追い求める、といったように、理想と具現化を行ったり来たりしながらプロダクト開発を進めていけるとよいでしょう。
まとめ~文系的な思考を理系的な仕事に持ち込む
プロダクト開発には加工や化学変化など、理系の知識が必要であり、メーカーは「理系企業」と考えられがちです。
しかし、人々の感性に訴えることができるプロダクトは、理系脳だけでは開発できないものであり、多くの理系企業が「文系人材」を求めています。
理系の技術屋たちでは解決できなかった課題をブレークスルーするのは、文系のマーケターといえるでしょう。
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<参考>