企業のWebサイトやECサイトなど(以下、サイト)を改善する手段のひとつにヒューリスティック評価があります。サイトの作成者や管理者などの担当者の経験則(ヒューリスティック)に基づいてサイトの使いやすさ(ユーザビリティ)を評価する方法で、主にリニューアルするときに用いられます。
コストを抑えられるメリットがある反面、経験則に基づくため恣意的な結果になってしまうリスクがあります。 したがってヒューリスティック評価では「手順」を守ることが重要になってきます。
ヒューリスティック評価とは
ヒューリスティック評価は、サイトを運営する企業が専門業者に依頼することもできますが、社内にアクセス解析ができる人やサイトの編集に詳しい人材がいれば、自前で行うこともできます。 なぜならヒューリスティック評価は、担当者の経験則を元にサイトのユーザビリティやインターフェースを評価する「だけ」だからです。 ヒューリスティック評価の内容は、アクセス解析と比較すると理解しやすいでしょう。 アクセス解析では、コンバージョン数や閲覧者数(訪問者数)、滞在時間、直帰率などの客観的な数値を元にサイトの状態を解析・分析します。そのためアクセス解析をするには、それぞれの指標が示す数値の意味を理解している専門家が必要になります。 そしてアクセス解析では、同じスキルを有した専門家であれば、誰が解析・分析してもほぼ同じ結論が導き出されるでしょう。客観的な数字が解析・分析のベースになっているからです。 ところがヒューリスティック評価は、「使いやすさ」や「美しさ」といった主観的な項目も評価します。それはヒューリスティック評価が、サイトの使いやすさを追求するときのツールだからです。すなわち、数値化できない感覚的な評価が重要になります。 ヒューリスティック評価によってサイトが使いやすくなったにもかかわらず、コンバージョンが上がらない、といった状況も起こり得ます。 ヒューリスティック評価とアクセス解析は「サイトを検討する」点は同じでも、目指すところは異なるのです。ヒューリスティック評価の利用が想定されるシーン
ヒューリスティック評価の利用が想定されるのは、ライバル企業のサイトが「優秀」だったときです。例えば、社内で自社サイトのユーザビリティの低さが指摘されるようになったころに、ライバル会社がサイトをリニューアルしたら、自社サイトがかなり劣っているように感じるでしょう。 そのとき、サイトのリニューアルを実施する前にヒューリスティック評価を行うのです。そうすれば、サイトのリニューアルはヒューリスティック評価の結果を元に進めることができます。 それでは次に、ヒューリスティック評価の手順について解説します。ヒューリスティック評価の手順
経験則や主観をベースにするだけに、ヒューリスティック評価では手順が重要になります。 ここで紹介する手順を守って進めないと「経験則や主観だけの」評価になってしまい、それではサイトのリニューアル効果を得ることは難しくなります。担当者を決める
自社でヒューリスティック評価を行うときは、担当者は複数人いたほうがよいでしょう。ECサイトのヒューリスティック評価であれば、経営者も担当者に加わったほうがよいでしょう。ECサイトの使い勝手の向上は売上に直結するからです。 ただし、経営者や管理職がヒューリスティック評価チームに加わっても、担当者間の関係性はフラットであるべきです。ヒューリスティック評価には若い社員の感性が大切なので、彼らが委縮することがないようにしてください。サイトをリニューアルする目的を定める
そして担当者たちは、サイトをリニューアルする目的を共有してください。単に「ユーザビリティを高める」と定めるだけでは、範囲が広すぎます。これでは散漫な評価結果になってしまいます。 目的は次のようなものが考えられます。 ・ナビゲーションを機能的にする ・有益なコンテンツを紹介する ・操作ストレスを減らす ・SNSとの連携を強化する ・購入のコンバージョンを増やす ・会員登録の増加を目指す ・資料請求を増やす ・企業ブランドを高める ただ、目的が多すぎると、結局は「ユーザビリティを高める」と言っているのと同じになってしまいますので、選択と集中が必要です。ライバルサイトの分析
ヒューリスティック評価はサイトのユーザビリティの向上を目指すわけですが、実は「使いやすさ」(ユーザビリティ)という基準もかなり主観的なものです。 リニューアル前の現行のサイトでも、十分ユーザビリティが高いかもしれません。しかしネットユーザーは気まぐれなので、他社が新たに開設したサイトに少しでも新しいデザインや機能が採用されていると、「こちらのほうが断然ユーザビリティが高い」と錯覚してしまうのです。 したがって、ライバル会社のサイトを比較せずにヒューリスティック評価を始めてしまうと、「うちのサイトは案外に使いやすいのではないか」といった意見が出てきてしまうかもしれません。サイトの制作に関わった人なら、なおさらそう感じるでしょう。 そのため、ヒューリスティック評価を行うときは、担当者全員で競合サイトについて研究してください。 特にパソコン向けサイトとスマホ向けサイトのデザインをしっかりわけている他社サイトは参考になるはずです。評価軸を正しく設定することが大切
冒頭で、ヒューリスティック評価では「経験則に基づくため恣意的な」評価になる可能性を指摘しました。 そのような事態を回避するには、担当者全員が評価軸を共有しておく必要があります。ニールセンの10カ条
ヒューリスティック評価の評価軸としては、サイトのユーザビリティ研究の第一人者であるヤコブ・ニールセン氏が提唱した「インターフェースのデザインでユーザビリティを向上させるための10カ条(10 Usability Heuristics for User Interface Design)」(*1)が参考になります。Visibility of system status | 視認性を向上させる |
Match between system and the real world | サイトとリアルをマッチングさせる |
User control and freedom | ユーザーが自由にコントロールできるようにする |
Consistency and standards | 一貫性を保ち標準化する |
Error prevention | エラーを防止する |
Recognition rather than recall | 直観的に操作できるようにする(操作方法を記憶する必要がないようにする) |
Flexibility and efficiency of use | 柔軟性があり効率的に操作できる |
Aesthetic and minimalist design | 美しくあれ、最小限であれ |
Help users recognize, diagnose, and recover from errors | ユーザーがエラーをすぐに認識でき、簡単に回復できるようにする |
Help and documentation | 「ヘルプ」と「操作マニュアル」を備えておく |
まとめ~ユーザーは主観で判断する
サイトビジネスの世界でも「エビデンス(根拠、証拠)」という言葉が流行しているので、どうしても「主観的な情報」は「客観的な情報」より劣る、と考えられがちです。 しかし、サイトのユーザーや閲覧者は、主観でサイトを評価します。「なんとなく使いにくい」「目が疲れるような気がする」というだけで、サイトから離れていきます。 したがって、経験則や主観を大切にするヒューリスティック評価はユーザー目線に近い評価なのです。 ヒューリスティック評価チームのなかにあえて新入社員を加えてみると、有益な意見が飛び出るかもしれません。無料お役立ち資料フォーム
<参考>