ITやAIやネットの技術を使ってイノベーションを起こす「デジタルトランスフォーメーション」(DX)。
その波は、アパレル業界にも届いており、アパレルで生き残るにも、この業界を牽引するにも、自社のDX化が欠かせなくなっています。
この記事では、
- グンゼ
- ユニクロ
- ZOZOTOWN
- トミーヒルフィガー
- FABRIC TOKYO
- バッジェリーミシュカ
のDX事例を紹介します。
健康管理をなにげなく。グンゼのDX
下着メーカーとして知られるグンゼですが、グンゼが考案したのは、下着にDXを活用すること。
グンゼが求めた付加価値は「健康」です。
そして、着るだけで心拍数、消費カロリー、姿勢の状態などが計測できる、服タイプのウェアラブル端末(あるいは、ウェアラブル端末の機能を持った服)を開発しました。
心拍数も消費カロリーも姿勢の状態も、センサーを取りつければ計測できますが、センサーが取り付けられた服は快適ではありません。
そこでグンゼは、自社の導電性繊維とNECの薄型デバイスを組み合わせます。
導電性とは電気を通す仕組みのことで、導電性繊維なら、体が発する信号を伝えることができます。
そして、体が発する信号をキャッチするためのセンサーや通信機器としてNECが開発した薄型デバイスを採用したのです。
このデバイスは薄型なので、服に取り付けても違和感なく着ることができます。
服は常に身につけているものなので、グンゼのこの新製品なら、常に心拍数や消費カロリー、姿勢の状態を把握することが可能。
グンゼの製品を身に付けることによって、簡単に、そして確実に健康管理ができるようになるのです。
製造小売業から情報製造小売業へ。ユニクロのDX
ユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正CEOは、DXの推進に最も熱心な大企業経営者の1人ですが、柳井氏は、ユニクロ事業を製造小売業から「情報製造小売業」に進化させたいと考え、DXに注目しました。
製造小売とは、洋服をデザインして、生地を調達して、縫製して、店に並べるビジネスのことですが、製造小売を行うだけでは、情報力で小売業を席巻しているアマゾンなどのネット通販企業に勝つことはできません。
そこでユニクロは、製造小売に情報を組み込んだ、情報製造小売に進化する道を選んだのです。
情報力を獲得することで、消費者が求める服をいち早くデザインに落とし込むことができます。また、情報力によって企画や生産や物流が効率化するので、消費者にいち早く最新の服を届けることができます。
ユニクロはビジネスを進化させるためにDXを活用しているのです。
DXで服のネット通販を進化。ZOZOのDX
ネット通販(EC)では試着ができないため、服はネット通販に向かないと言われていました。
ZOZOはその常識を覆した革命児です。
ZOZOというと、体形をIT機器で測定するZOZOスーツが知られていますが、これはアパレルのDX化の走りといえるもの。
ZOZOの現在のDX関連の課題は「マルチサイズプラットフォーム」(MSP)の構築です。
リアル店舗の洋服店であれば、客は試着をしたり服を体に当てたりすることができるため、自分のサイズに合った服を購入することができますが、ネット通販ではそれができません。
そこで重要となるのがMSPです。
MSPはさまざまなシステムやツールの総称で、その一部は次のとおりです。
- 生産データの連携
- 書類の自動作成
- データの可視化
- 検寸
- 検品
- 不良報告の自動化
- 生産進捗の確認
MSPが実現すれば、顧客は、自分のサイズのことを気にせず服を購入することができるようになるでしょう。
ZOZOはDXで、服のネット通販を進化させようとしています。
デザイン性を高める。トミーヒルフィガーのDX
トミーヒルフィガーは、デザインをDXで進化させようとしています。
同社は2019年に、デザイン部門に3Dデザイン技術を導入すると発表。2022年春のコレクションから、すべてこの技術でつくられたものになります。
3Dデザインはデザイン段階から立体で描くことができるので、サンプル製作が不要になります。それによって、生産性が上がるだけでなく、デザインの質の向上も期待できます。
また、従来のデザイン手法は、2次元の絵を3次元化する工程でデザインと最終形に齟齬が生じることがありましたが、3Dデザインなら最初から最終形をつくっていくことができます。
トミーヒルフィガーは3Dデザインの本格導入にあたり、ソフトウェア技術者と3Dデザイン専門家と変革専門家で構成するチームをつくりました。
トミーヒルフィガーは、デザイン性を高めるためにDX化に取り組んでいます。
DXでコストダウンを実現。FABRIC TOKYOのDX
FABRIC TOKYOは、拘束時間が長くなく、それでいてこだわり抜いたオーダースーツを作ることができるアパレルメーカーです。
FABRIC TOKYOでオーダースーツをつくるには、顧客がまず同社のリアル店舗に行かなければなりません。しかし、採寸に訪れた顧客にその場で服を売ることはありません。
リアル店舗で採寸した客の体形のデータは、クラウドに保存されます。そして、採寸を済ませた顧客は、FABRIC TOKYOのサイトから気に入った服を選んで注文することができます。
このシステムによって服づくりの無駄を排除。同社のスーツは、オーダーメードでありながら41,800円からと、とても買いやすい価格となっています。
FABRIC TOKYOはDXでコストダウンを実現したといえます。
情報提供と情報収集にDXを活用。バッジェリーミシュカのDX
ニューヨークの高級ブランドであるバッジェリーミシュカは、ファッションショーにDXを導入しています。
ファッションショーをリアルタイムで実際に見ることができるのは、通常、一部の招待客に限られています。その結果、ファッションに関心がある多くの一般の人を失望させ、ブランド側にも消費者の反応をすぐに把握できないという損失をもたらしています。
インスタグラムやツイッターなどのSNSを使うことで、一般の人たちのリアルタイム視聴は実現できますが、それだけでは「ただ見ることができる」だけです。
そこでバッジェリーミシュカは、SNSでファッションショーを生配信するだけでなく、モデルの服に小型の特殊装置をつけ、視聴している人に、今まさにランウェイを歩いているモデルが着ている服の情報を提供することにしました。
ファッションショーのSNS視聴者たちは「いいね」ボタンを押すことで服を評価することが可能。
バッジェリーミシュカにとってその「いいね」情報は、消費者の率直な感想であり、なおかつ、新作の服を発表した直後の評価なので貴重なデータになります。
バッジェリーミシュカは情報提供と情報収集にDXを活用しているといえるでしょう。
まとめ
アパレル業界は斜陽産業といわれて久しいですが、消費者が必要とする服や着たい服を適切なタイミングで提供できれば、アパレル企業はまだまだ成長することができる分野です。
それには欠かせないのがDXの導入。
DXの導入に踏み切ったアパレル企業の目的は、機能性の向上、生産の効率化、コストダウン、情報収集などさまざまですが、いずれも消費者の貪欲なニーズを満たそうとしています。
最早DXを使わなければ、流行に敏感に人たちを追うことはできないと考えてよさそうです。
<参考>
ZOZOが推進するアパレル生産のデジタルトランスフォーメーション