マーケターで「コンプライアンス」を知らない人はいないでしょう。
しかし、コンプライアンスを強く意識して、日々のマーケティング業務に取り組んでいるマーケターは、それほど多くないのではないでしょうか。
企業において「コンプライアンスを意識すべき人」は、経営者、総務部長、法務担当者はもちろん、すべての従業員です。
そこでこの記事では、マーケターが知っておくべきコンプライアンスについて解説します。
法令とは、順守とは
「マーケターのコンプライアンス」に注目する前に、「一般的なコンプライアンス」について見ていきましょう。
マーケターは「一般的なコンプライアンスはこうだ。ならば、マーケティング業務ではこの点に注意しなければならない」と考えるとよいでしょう。
「守ればよい」では済まされない
コンプライアンスの略は「法令順守」です。
では、コンプライアンスとは、憲法、法律、命令(国の行政機関の指示)、条例、規則(地方公共団体の指示)を守ればいいのか、というと、そういうわけではありません。
法令を守ることは、最低限のことであり、コンプライアンスは、法令以外のさまざまなルールも守らなければならないのです。
また、法令や社会的なルールが許容していることであったとしても、時と場合によっては、コンプライアンスの見地から「問題あり」と認定されることがあります。
例えば、ある点検が「6カ月に1回程度行えばよい」と定められていたとします。このような緩い内容だと、担当者は「7カ月に1回の点検でも、問題なさそうだ」と感じるかもしれません。そして実際に、7カ月に1回点検していれば、大きな問題にはならないでしょう。
では、8カ月に1回ならどうでしょうか。9カ月に1回ならどうでしょうか。
このように考えていくと、「その点検は6カ月に1回程度行えばよい」というルールが定められている場合、しっかり6カ月に1回点検するのが得策です。
また、もし点検で異常が見つかり、その異常によって大きな被害が起きることがわかっていれば、3カ月後に1回点検することが大切です。なぜなら、それだけ大きな被害が起きる可能性があるのなら、「6カ月に1回程度の点検でよい」というルール自体が、「緩すぎる」といえるからです。
コンプライアンスは、法令に従うだけでなく、社会の要請にも従わなければならないといえるでしょう。
なぜ「コンプライアンス」が叫ばれるようになったのか

コンプライアンスの重要性がこれほど強く世間で叫ばれるようになったのは、最近のこと。その背景には、経済活動の多様化と規制緩和があります。
1950~70年代、日本では公害が深刻な社会問題になっていましたが、公害には、法律に違反して起こったものだけでなく、法律が想定していなかったものもありました。
そのため、政治、行政、経済界、産業界は次々と厳しい公害防止策や環境基準を打ち出していきます。
こうした取り組みはコンプライアンス的ではありますが、このころはまだ「コンプライアンス」という言葉は使われていませんでした。
日本経済はその後、バブル景気とバブル崩壊を経験し「失われた20年」へと突入します。
景気浮揚が急務となり「規制を緩めて、企業活動を活発にしよう」という考えが拡大。また、ITやインターネットの普及によってさまざまなビジネスが誕生し、法整備が追いつかなくなりました。
規制を緩めることが正しいことであるとされ、法整備が追いつかなければ、「何が」経済活動の暴走や失敗を食い止めるのか、その答えが、「コンプライアンス」です。
コンプライアンス問題では、適法だったかどうかだけではなく、「規制が緩和されたからといって、それはやりすぎだ」「法律がないからといって、そのような行為が許されるはずがない」といったことも議論されます。
そして、法律に違反していなくても、コンプライアンスの精神から外れれば、社会的な制裁を受けることになるのです。
マーケティングで注意すべきコンプライアンスとは
マーケティングは、ITやネットを駆使し、社会的な影響が大きい事業でもあるため、コンプライアンスと無関係ではいられません。
ここでは、ステルスマーケティング(以下、ステマ)とSNSマーケティングのコンプライアンスについて考えてみます。
ステマがなぜコンプライアンス違反なのか
ステマとは、広告でないように見せかけて、広告を「仕込む」マーケティング手法のこと。
例えば、ある企業が、独自にニュースサイトを開設したとします。
自社サイトに広告記事を掲載しても、違法ではありませんが、多くの客観記事のなかに広告記事を紛れ込ませたら、読者は「広告目的の記事である」と錯誤するでしょう。
この企業がいくら「客観記事しか掲載しないとは言っていない」と主張しても、現在のマーケティング基準では通用しません。
多くの客観記事のなかの少数の広告記事は、錯誤させることを意図したステマ戦略とみなされるので、コンプライアンス的に問題のあるマーケティング手法といえます。
SNSマーケティングではインフルエンサーに注意を
SNSマーケティングで、インフルエンサーたちにPRや広告を依頼することがあります。インフルエンサーの活用は、芸能人や有名人や知識人を広告に起用するより手軽であり、コストもかかりません。
しかし、フォロワーや視聴者を多数持っているインフルエンサーのなかには、経歴がわからない人や、ビジネス・マナーやビジネス・ルールに無頓着なインフルエンサーもいます。
もし、インフルエンサーのSNSが炎上すれば、このインフルエンサーにPRを依頼していた企業のブランドの毀損につながります。
そして、起用したインフルエンサーがコンプライアンスに抵触すれば、企業にもコンプライアンス上の責任が問われます。
SNSマーケティングでは「リスク・ヘッジ」だけでなく「コンプライアンス違反・ヘッジ」も考慮に入れる必要があります。
マーケティング関連のコンプライアンス問題の事例
マーケティングでコンプライアンスが問題になった事例を紹介します。
自動車メーカーM社の燃費データ改ざん問題
自動車の燃費は、その車を買うかどうかの重要な判断基準の1つです。したがって、自動車メーカーのマーケターは、マーケティング・キャンペーンで燃費の数値を訴求しようとします。
2016年に発覚した、自動車メーカーM社による燃費データ改ざん問題は、そのような消費者心理を利用した悪質なものでした。
しかも、不正は20年以上も続いていて、改ざんに関わった部署は複数。組織的な関与が疑われました。
このコンプライアンス違反の代償として、購入客への総額650億円に及ぶ補償に加え、役員報酬を全額返上または減額。
M社への信用が失墜したことにより、M社の経営に大きな影響を与えることになります。
まとめ~知っておかなければならない
マーケターは、コンプライアンスの専門家ではありませんが、コンプライアンス問題は「知らなかった」では済みません。
もし、マーケティング・キャンペーンの内容にコンプライアンスに引っかかる部分があれば、企画全体が中断されます。
自分の仕事と自分の企画を守るためにも、マーケターは常にコンプライアンスに注意を払うようにしましょう。
お役立ち資料ダウンロードはコチラ
<参考>