最近、マーケティング分野でショーシャルリスニングが注目されています。Social Listeningを直訳すると「社会的な傾聴」や「社会に耳を傾ける」となりますが、ここでいうソーシャルは「SNS、Social Networking Service」のSです。
つまり、企業がフェイスブックやユーチューブやツイッターやインスタグラムなどのSNSを調査して、それをマーケティングに生かす手法が、ソーシャルリスニングです。
企業がSNSをマーケティングするのは、そこに消費者の本音が赤裸々につづられているからです。
つまりソーシャルリスニングでは、市場調査の「一級資料」を集めることができるのです。
SNSで何がわかるのか
企業のビジネス活動とSNSにはどのような関係があるのでしょうか。また、企業はSNSから何がわかるのでしょうか。
消費者は調査で嘘をつく?
企業が「知りたいこと」のひとつに、消費者の本音があります。そのため多くの企業は、アンケート調査や市場調査に多額の費用を投じます。
また、企業の担当者が消費者の自宅を訪問して生活の様子をみせてもらったり、消費者を企業の会議室に招いて発売前の新商品を試してもらったりすることもあります。
しかし消費者は「調査の雰囲気」を感じ取った瞬間に本音を隠してしまいます。意識的に隠す人もいますし、無意識のうちに隠れてしまうこともあります。
いずれにしても、企業が消費者の本音に近付くことは簡単ではありません。
企業が消費者の本音を探れないと、売れない商品や役に立たないサービスを世の中に出してしまうことになります。そのような事例は少なくなく、多くの企業が「市場調査では好評だったのに、まったく売れなかった」という経験をしています。
狭い社会の情報であることに価値がある
ところがSNSでは、ほとんどの人は本音を語ります。もちろん、なかには宣伝のようなSNS投稿もあるので、すべての投稿が本音であるとは限りませんが、それでも現代のメディアや媒体のなかでは、SNSは最も「本音率」が高いもののひとつといえます。
なぜならSNS内で構築されているソーシャル(社会)は、大抵は限られた社会だからです。人は、広い社会では自身を取り繕ったり工夫しようとしたりしますが、狭い社会ではリラックスして素の自分をさらけ出すものです。
1人のSNS投稿の視聴者は、著名人でなければ数人や数十人といったレベルです。SNSの狭い社会では、人々は安心して本音をつぶやくことができ、そのつぶやきこそ、企業が最も知りたいことなのです。
ソーシャルリスニングとは
ソーシャルリスニングとはSNSに耳を傾けるマーケティング手法です。調査対象はフェイスブック、ユーチューブ、ツイッター、インスタグラムなどになります。
SNSを「のぞく」こと
SNSのユーザーは狭い社会をつくって情報をやりとりしていますが、その気になれば誰でもそこを「のぞく」ことができます。
しかもその「のぞき」は合法です。しかもユーザー自身が、広い社会から「のぞかれる」ことを承認し、期待しています。「いいね」が増えることを喜びにしている人が多いことからも、ユーザーの承認や期待は明らかです。
これがSNSのユニークなところです。
SNSユーザーは狭い世界を形成しながら、同時に広い世界にもアクセスしようとしているのです。
したがって企業がマーケティング目的でSNSを調査することは、法律上も倫理上も問題ありません。
ソーシャルリスニングで何を把握すべきか
企業がソーシャルリスニングで「わかること」はたくさんあります。
なかでも次の項目は重要です。
- 企業イメージ
- ブランドイメージ
- 商品やサービスの評価
- 悪いところや欠点
SNSには「なんとなく好き」「なんとなく嫌い」という情報が多く登場します。これは、情報発信者(消費者)自身も、なぜ好きなのか、なぜ嫌いなのかわかっていません。
しかし消費者は、理由はなくても嫌いな企業の商品やサービスは購入しないので、企業はまずは自社が「好かれているか嫌われているか」をSNSから把握する必要があります。
悪評こそが「改善の種」になる
そしてSNSでは、ブランドや商品やサービスの、悪いところや欠点を知ることができます。企業にとって重要なのは「改善の種」を探すことです。
コストをかけて研究して開発したのに売れない場合、マーケットのニーズに合うように改善しなければなりませんが、多くの企業は「どこを改善しなければならないのか」をみつけられません。
なぜなら自信を持って商品やサービスを世に出しているからです。なかには「この製品のよさがわからないのは消費者が鈍いからだ」と考える開発者もいます。
そこでソーシャルリスニングを実施すれば、「諸費者はそんなことを気にしていたのか」ということがわかります。例えば、商品のパッケージを変えただけで売れるようになることもあります。
ソーシャルリスニングでは、自社のよいところを知ることもできます。例えば、ある消費者が自社製品を意外な方法で使っていたら、その使用方法を訴求することで販路を拡大できるかもしれません。
しかし企業にとってSNSに埋められている「宝」は、自社の悪いところや欠点に関する情報でしょう。悪い評判や間違った噂を入手できれば、対策を打ち出すことができます。ダメージコントロールにもソーシャルリスニングは活用できます。
ソーシャルリスニングの方法
企業がソーシャルリスニングを導入する場合、専門の会社に発注すること(外注すること)が多いようです。
もちろん、自社の広報担当者にSNSを視聴させて分析する方法もあります。しかし広報担当者がSNS情報の分析に長けていないと、その情報が偏ったものになってしまいます。SNSを漫然と視聴しているだけでは、客観的な傾向をつかむことができないからです。
したがって、調査会社に外注したほうが、より確かな情報を得ることができます。
NTTコムリサーチによると、32.6%の企業が、すでにSNS投稿情報分析ツールを導入しています。
また最近は、AI(人工知能)を使ってSNS分析を行う調査会社もあります。AIは大量の情報を短時間で分析し、そこから傾向や法則を抽出することができます。
それでは次に、コカ・コーラが採用した、AIを使ったソーシャルリスニングについて紹介します。
【事例紹介】コカ・コーラのソーシャルリスニング
東証一部上場のアナリティクス企業である株式会社ブレインパッド(本社・東京都港区)は、2018年に日本コカ・コーラ株式会社のソーシャルリスニングをAIを使って実施しました。
コカ・コーラ側が求めた情報は、消費者心理でした。
ブレインパッドはAIを使ってSNS上の投稿画像のなかから、コカ・コーラ製品が映っている画像を10万枚集めました。
AIによる画像収集の優れた点は、コカ・コーラ製品が写真の真ん中にある写真以外も抽出できることです。例えば、キャンプの写真のなかに、コカ・コーラ製品を手に持って写っている人がいたら、その写真もピックアップします。
仮にAIが、キャンプシーンとコカ・コーラ製品の関連性が高い、と分析したとします。すると「キャンパーにコカ・コーラ製品は好まれている」ということがわかります。
すると日本コカ・コーラは、キャンプシーンでコカ・コーラ製品を飲むテレビCMをつくることができるわけです。
またAIを使うことで、コカ・コーラの自動販売機や、駅に貼られたコカ・コーラのポスターを除外することもできます。自社の自動販売機や自社のポスターはマーケティングに関係しないため、それを「母数」に入れてしまうと精度が狂ってしまうからです。

まとめ~情報量の多さは圧倒的
かつて、情報量は「マスメディア>企業>個人、消費者」という不等式になっていました。しかしSNSの爆発的な普及によって「マスメディア=企業=個人、消費者」となり、ときに「マスメディア<個人、消費者」という不等式すら成り立つこともあります。
例えば、新聞記者やテレビのディレクターがSNS投稿をニュース・ソース(いわゆるネタ元)にすることは珍しくなくなりました。つまりこのとき、SNSユーザーが情報発信元で、マスメディアが情報の受け手になっているのです。
企業が自社のマーケティングにソーシャルリスニングを導入することは自然の流れであるといえます。SNSを熟読することは、「消費者の声に耳を傾ける」ことになるのです。
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<参考>
企業によるソーシャルリスニングに関する動向調査、32.6%の企業でソーシャルメディア投稿情報分析ツールを導入(NTTコム リサーチ)
フェリス女学院大学にて、「ソーシャルリスニング」の講義をさせていただきました(ブレインパッド)
ブレインパッド、SNSの投稿画像をAIで解析し、ドリンクの消費シーンを分析(ブレインパッド)