イギリスの家電メーカー・ダイソン社。驚異の吸引力で世界に知られるサイクロン掃除機を開発した企業ですが、サイクロン掃除機が生まれたプロセスを紐解くと、それほど難解な要素はありません。
本記事では、ダイソン社のサイクロン掃除機はどのようにして生まれたのか、その開発秘話にせまります。新商品開発で悩んでいる企業の経営者や開発担当者は、ぜひ参考にしてください。
サイクロン掃除機の開発秘話
ダイソン社はサイクロン掃除機の開発秘話を公式サイトで公開しています。
その内容について見ていきましょう。
掃除機に不満をもって分解
1978年、ダイソン氏は当時使っていた掃除機が使い続けるうちに性能が落ちてしまうことを不満に感じていました。ダイソン氏は、性能が落ちてしまう原因を突き止めるため、掃除機を分解。その結果、紙パックが目詰まりすることで吸引力が落ちるのだということが判明したのです。
製材工場の機器に注目
紙パックの目詰まりを解消したいと考えていたダイソン氏は、製材工場の屋根にあった木くずと空気を分離するサイクロン装置に目を止めます。そして、サイクロン装置の原理を掃除機に応用すれば、紙パックを使わなくて済むので、目詰まりによる吸引力低下という課題を解決できるのではないか、と考えました。
5年間で5,127の試作を繰り返す
サイクロン装置に目を付けたダイソン氏は、サイクロン掃除機の開発に取り組みます。そして、5年の月日と5,127台の試作品をかけ生まれたのが、世界初のサイクロン掃除機です。
世界を視野に入れ、家電の評価に厳しい日本市場で販売
ダイソン氏はその掃除機を「G-Force」と名づけ、日本市場で売り出します。
日本市場を選んだ理由は、日本が家電大国であり、家電の評価に厳しい日本市場で成功すれば、世界で通用すると考えたからです。
G-Forceは1台20万円という破格の価格で販売されましたが、順調に売上をのばし、1991年の国際産業デザイン見本市では賞を受賞しています。
100%を実現した、との自負
ダイソン氏は、G-Forceの売上でダイソン社を設立。そして1993年にはイギリス国内に研究センターと工場を同時につくりました。
そこで最初に開発されたのはDC01というサイクロン掃除機であり、ダイソン社はこれを「100%の吸引力を100%持続させる」というキャッチコピーで売り出しました。
新商品開発のきっかけは既存の商品への不満
ダイソン氏が掃除機開発に乗り出した理由は、既存の掃除機に不満を持ったため。つまりダイソン氏が掃除機を使用する際に「どうにかならないか」と感じた使い勝手の悪さが新商品の開発につながったのです。
このエピソードからいえるのは、掃除機の吸引力が落ちても気にならない人には、サイクロン掃除機を生み出すことができなかったということ。つまり、新商品を開発するには、その商品を使うなかで、気になったことを拾い集めるこ
とが大切である、といえるでしょう。
また、新商品の開発で大切となるのが、不満に感じる要素をどうにかしたい、と感じること。掃除機の例では、掃除機の吸引力が低下した場合、多くの人が紙パックを交換すればいい、と考えます。
しかし、ダイソン氏は紙パックが満杯になっていないのにも関わらず、掃除機の吸引力が落ちるのはおかしい、と感じ、その原因究明と解決に取り組んだのです。不満を持ち、不満を解消する気持ちを持つ――この2つの要素は、新商品開発には欠かせません。
ダイソン氏の新商品開発手法のポイントは、改良に取り組んだこと。ダイソン氏は、これまで誰も考えつかなかった奇想天外な掃除方法を開発したわけではあ
りません。既存の掃除機の不満点を解消するため、サイクロンという新たな機能の搭載を進めただけ。強い不満を解消できればヒット商品になるといえるでしょう。
時間とコストをかけて納得のいく商品を
ダイソン氏は、サイクロン掃除機1号機をつくるまでに5年という長い歳月をかけ、5,127台もの試作品を作りました。この数字は、開発から1年、2年経っても成功しないからといって、諦めるのは早い、ということ。
もちろん、長い歳月をかけて試作品を作り続けても成功するとは限りません。
しかし、これこそが、成功の代償であり、リスクを取る覚悟と、成功するまであきらめない努力が、新商品開発には必要だといえるでしょう。
勝負は大胆に
ダイソン氏は、掃除機を売り出すステージを日本に設定しました。これは、前述したように、家電王国ニッポンで成功すれば、世界戦略を描きやすいと考えたからです。
しかし、それなりに優秀な掃除機が多数販売されている日本で、知名度がまったくないメーカーの掃除機を20万円で売り出すには、それなりの勝算がなければなりません。つまり、ダイソン氏は、サイクロン掃除機が日本で勝てるだけの商品になるまで世に出さなかったともいえるでしょう。
ダイソン氏の勝負の仕方は「大成功と世界的な評価を得るため、徹底して商品開発を行う」というもの。新商品を開発する、という取り組みは際限のない行為であり、いくらでも改良することができます。
しかし、開発を続けるだけではいつまで経っても市販化できません。したがって、経営者は「大体それくらいでよいだろう」というラインを決めて、生産に入
ることが大切です。
改良と開発に絶えず取り組む
ダイソン氏は、日本で成功して得た利益で会社と工場、そして、研究センターをつくり、新商品の開発に取り組みます。新商品開発は、終わりのない取り組みです。
いくらよい新商品であっても、市場に出した瞬間から陳腐化が始まります。ライバル企業が似た商品をつくり、消費者の飽きも、大きな敵となります。
新商品を開発し、市場で販売を開始したら、それと同時に改良に着手する、もしくは、次の新商品開発に取り組むといいでしょう。
デザイナーとエンジニア、経営者でチーム作り
ダイソン氏はデザイナーでありエンジニアです。だからダイソン社の製品は、高性能なのに格好いいデザインを持っているわけです。そしてダイソン氏は、その2つの肩書に加えて、経営者という役職も持っています。
このように紹介すると、「ダイソン氏がデザイナーとエンジニアと経営者の3役をいずれも高レベルでこなしたから、ダイソン社は成功したのだ」「自分にはデザイン・スキルもエンジニアリング・スキルもないから上手くいかない」と考える経営者もいるかもしれません。
新商品で成功するには、経営スキルとデザイン・スキル、エンジニアリング・スキルの3つが欠かせません。経営者1人でデザイナーとエンジニアと経営者の3役をこなせないのであれば、チームをつくり、新商品開発に取り組むといいでしょう。
まとめ
ダイソン氏は、成功までのプロセスをかなり詳細にマスコミに明かしています。
「成功の要因」は商品の不満点を知り、それを解決する方法を探る、ということ。新商品開発の際には、既存の商品についての分析から進めていくと良いでしょう。
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<参考>
「誰もが感じるように、きちんと機能しない製品に対して不満を感じます。デザインエンジニアとして、その不満を解決する方法に取り組みます。発明と改善がダイソンのすべてです。」