マーケティングが一本のコースだとすると、ニーズ調査はスタート付近に位置します。
魚がいない池で釣りをしても魚は釣れません。ニーズ調査は魚がいるかどうかを探ります。池にいる魚がワカサギであれば、ブラックバス用の大型ルアーで釣ることはできません。ニーズ調査は魚種を特定したり、その魚が好みそうな餌を調べたりします。
現代のビジネスシーンにおいて、新製品の開発でも既存事業の拡大でも、ニーズ調査なしでは立ち行きません。
ニーズ調査の目的やニーズ調査でわかること、活用事例などを紹介します。
ニーズとは何か、ウォンツとの違いは
ニーズ調査はニーズを調べるものであり、ウォンツを調べるものではありません。しかしニーズとウォンツは「求めるもの」という意味では同じなので混同されがちです。
そのためニーズ調査に取り掛かったにもかかわらず、いつの間にかウォンツを探していることがあります。当然ですが、それではニーズはつかめません。
したがってマーケティングを始める人は、ニーズとウォンツには次のような違いがあることを押さえておいてください。
ニーズは必要性の問題なので、欲しくないモノでも買い求めることがあります。風邪薬を「欲しい」と思う人はいませんが、風邪をひいた人は必要に駆られて購入します。
一方のウォンツは欲求の問題なので、必要でないモノでも買い求めることがあります。お酒は、飲む必要がなくても欲求を抑えきれず購入してしまうことがあります。
ただ、ニーズとウォンツが偶然同じ商品になることがあります。例えば、パソコンを使って事務作業をしなければならない人は、パソコンをみると仕事を思い出すのでできれば手元に置いておきたくないのですが、必要なので保有します。
一方でパソコンマニアは、すでに4台のパソコンを保有していても、新型のパソコンが発売されると買わずにはいられません。
さらに、ニーズは休暇、ウォンツは旅行という違いもあります。半年以上働き詰めの人には休暇が必要ですが、その人が休暇を取ったとき旅行に行くかどうかはわかりません。しかり旅行好きな人が半年以上働き詰めだと、休みが取れた途端に新幹線に飛び乗るでしょう。
ニーズ調査の目的とは
ニーズ調査は、消費者のニーズを探る行動のことで、マーケティングの1つの過程です。ニーズ調査によって大量かつ強力なニーズが発見できれば、そのニーズに応える商品やサービスを開発・販売することで苦労せずに大きな利益をあげることができます。
しかし現代の日本のマーケットには、単純明快な大量かつ強力なニーズはほとんど残っていないと考えてよいでしょう。日本やアメリカのような経済大国で自由な買い物ができて商品やサービスがあふれかえっている国の消費者は、ある意味で「ニーズは満たされすぎている」といえます。
例えば、自家用車というニーズを満たすのであれば、30万円程度でしっかり走る中古車を簡単に手に入れることができます。服装というニーズも、携帯電話というニーズも、腕時計というニーズも、食事というニーズも、簡単かつ安価に満たすことができます。
したがって、ニーズ調査で自家用車のニーズや服装のニーズを発見しても、それはマーケティングにもビジネスにもなりません。
マーケティングで必要とされているニーズ調査は、例えば次のようなものです。
・25~29歳の大卒女性がゴルフに使う年間予算
・3歳未満の子供を持つ父親の休日の過ごし方
・1年以内にサラダオイルからオリーブ油に切り替えた人の声
・ハワイに年2回以上行く人が好きな色
・キャンプの誘いを断る理由ベスト20
これらを「変な調査」と感じるでしょうか。それとも「ここまで細かく調べる必要があるのか」と意外に思うでしょうか。
マーケティングの教科書には、ニーズ調査の目的は消費者の嗜好やライフスタイルを探ること、と書いてあります。しかしビジネスパーソンがニーズ調査を外注したり、自身でニーズ調査をしたりする場合、目的に「消費者の嗜好」「消費者のライフスタイル」を据えても思うような結果は得られないでしょう。
それは目的が大きすぎるからです。
「消費者のニーズが多様化している」と聞いたことがあると思います。ニーズの多様化とは、「ニーズが細切れになっている」と理解したほうがよいでしょう。
したがってニーズ調査の目的も細切れにする必要があります。
例えば、オートバイ愛好家のなかには、1980年代の国産バイクにだけ興味を持っている人がいます。その人たちのニーズを調査するとき、調査票の質問項目にハーレーやドカティ、トライアンフといった現代の海外バイクメーカーの名前が並んでいては必要な情報を獲得することはできません。
ニーズ調査の目的を設定する人は、実はニーズ調査の被験者たちより「マニア」でなければなりません。
ニーズ調査を行う目的は、調査の実施者たちがまったく知らないことをみつけるためではありません。ほぼ100%確信できていることが間違いないか確認するときや、99まで判明していながらどうして最後の1だけわからないときにニーズ調査を実施するのです。
ニーズ調査で把握できること
ニーズ調査ではあらゆる要素を把握することができます。例えばパソコンメーカーがニーズ調査を実施すれば、液晶画面の見え方、機能、外観のデザイン、操作性、メモリーの容量、大きさについて、消費者の感じていることがわかります。
健康食品やサプリメントのメーカーのニーズ調査であれば、健康意識に関するニーズを、年齢別、世帯年収別、持病別、子供の有無別、職業別、住居形態別、体重別、慎重別、運動歴別に把握することができます。
ニーズ調査で把握できないことはない、といっても過言ではありません。
把握できる項目の多さよりも重要なのは、ニーズ調査結果から仮説や推論を立てる思考力です。ニーズ調査の調査項目を増やしすぎてしまうと、得られた情報が多すぎて収拾がつかなくなる恐れがあります。
したがってニーズ調査の実施者は、まずは知りたいことをしっかり持っておく必要があるでしょう。
知りたいことには、
・新製品の開発を継続してもいいのか
・既存事業はそろそろ撤退時期にきているのか
・成熟市場に新規参入して勝ち目はあるのか
などがあります。
知りたいことが確定した段階で、それを知るために必要な情報を絞っていかなければなりません。ニーズ調査では、その情報を把握することを目指します。
ニーズ調査の活用事例
ニーズ調査の活用事例を紹介します。
飲料メーカーが缶コーヒーで新機軸を打ち出したいと考えました。缶コーヒーには「男性の飲み物」というイメージがあるので、もし女性に受ける缶コーヒーを商品化できればブルーオーシャン市場(ライバルがいない市場)を切り拓くことができます。
そこで飲料メーカーはニーズ調査を調査会社に依頼しました。
市場が飽和状態になりレッドオーシャン化(競争激化)してきた場合、意外性のある商品を打ち出せば消費者の注目を集めることができます。
しかし注目が集まって認知度が高まったにも関わらず売上が伸びないことがあります。
マーケティングを無視してニーズ調査も行わず、いわゆる「きわもの」商品を出してもビジネスになりません。
この飲料メーカーは、缶コーヒー業界の常識を破って「女性向け」を開発しようと思い立ちました。しかしこれまで超大手の飲料メーカーでも女性向け缶コーヒーはほとんど成功していません。そこでこの飲料メーカーは慎重を期し、ニーズ調査を行ったわけです。
調査方法
ニーズ調査にはさまざまな方法があります。古くからある手法はアンケートです。ニーズ調査の実施者が知りたいことを質問に置き換えるだけなので、準備が容易です。またアンケートの答え方を知らない調査対象者はいないので、ニーズ調査自体スムーズに進みます。
ただ、アンケートの場合、書くことのわずらわしさと、配布と回収という手間があり、非効率な部分があります。
ニーズ調査でもインターネットの利用が主流になりつつあります。調査会社はモニターを確保しているので例えば「北関東の40代の独身男性、年収300万円以上」といった、ピンポイント調査が可能です。
またニーズ調査で頻繁に行われているのが、調査対象者やモニターを企業の会議室に集め、発売前の商品やサービスを使用・体験してもらって感想を聞く方式です。
費用や手間がかかる手法ですが、消費者に「じっくり」話を聞くことができるので濃密なニーズや眠っていたニーズを探し出すことができます。
まとめ~ジョブズでない以上ニーズ調査は必須
アップルの創業者の半生を描いた映画「スティーブ・ジョブズ」で、ジョブズ(役のマイケル・ファスベンダー)が、同僚から「マーケティングをしっかりやりなさい」と叱責されたとき、彼は次のように言い返しました。
「ボブ・ディランは聴衆に『どんな音楽が聴きたいか』と聞いて歌をつくったりしない」
つまりジョブズは「ニーズは探すものではなくつくるものだ」と言っているのです。
しかしパソコンのマッキントッシュやスマートフォンのiPhoneといった、人々が潜在意識にすら持っていなかったニーズをつくりだすことができるのは、天才ジョブズだからです。
一般のビジネスパーソンはやはり「ニーズ探し」に取り組んだほうが無難でしょう。
厳密なニーズ調査を行えば、思わぬ場所にブルーオーシャンが広がっていることを発見できるかもしれません。
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