ビジネスパーソンであれば、マーケティングレポートを活用することも、作成することもあると思います。
マーケティングレポートを活用する意義と作成する意義を簡単にまとめると、以下のようになります。
マーケティングレポートとは、特定の市場や特定の業界や特定の商品群の動向や様子を記述した報告書です。
したがってマーケターがマーケティングレポートを活用すれば、業務を簡素化できたり、マーケティングの方向性をつかんだりすることができます。
経営者が経営戦略を立てるときにも使われます。
またマーケターであれば、業務として取り組んだマーケティングのマーケティングレポートをつくってみましょう。自社のマーケティングの実情をレポートにまとめれば、やはり経営者の経営判断に役立ちますし、他部署も重要資料として重宝するでしょう。
この記事ではマーケティングレポートの1)活用法と2)作成法について解説します。
他社のマーケティングレポートはこう活用しよう
まずはマーケティングレポートの活用法をみていきます。
広い意味では、日本経済新聞や業界紙も、マーケティングレポートといえます。しかし日経は報道機関であるため、記事の内容は「報道の意義」を重視したものになってしまいます。したがって、日経の記事のなかにマーケターや経営者が求める内容が必ず含まれるとは限りません。また、日本経済新聞をマーケティングレポートとして使うとなると、毎日ニュースをチェックしなければならず、それは手間がかかります。
マーケティングレポートは、専門の調査会社も販売しています。こちらのマーケティングレポートは、購入者であるマーケターや経営者のニーズに応えた内容になっているので、情報としての価値は高いといえます。
多少コストがかかっても、調査会社が作成したマーケティングレポートを購入したほうが効率的でしょう。
マーケティングレポート~矢野経済研究所の無料公開版の例
有料のマーケティングレポートは、帝国データバンクや会社四季報なども販売していますが、ここでは株式会社矢野経済研究所のものを紹介します。
矢野経済研究所の公式ホームページに、無料で閲覧できるマーケティングレポートがあります。有料のものは230ページもありますが、無料公開版は1ページに要約したものです。しかし無料公開版でもマーケティングレポートの体裁になっていますので、概要を紹介します。
その一例が「注目を集める美容医療市場の実態と将来展望」(*)で、2019年7月に公開されました。
「前文」「美容医療の市場規模推移」「市場トレンド」「市場展望」「おわりに」の5部構成になっています。この記事の後段でマーケティングレポートは書き方を紹介しますが、この構成をベースにしています。
それというのも、この5部構成が優れているからです。
5部の内容を要約すると以下のようになります。
*:https://www.yano.co.jp/opinion/190701.html
【前文の要約】
今注目されている美容医療の動向を探った。美容医療は主に、メスを使う外科的施術とメスを使わない非外科的施術にわかれる。
【美容医療の市場規模推移の要約】
直近の2017年の市場規模は325,200百万円で、2014年比114.8%。外科的施術は減少し、非外科的施術が主流になっている。
<美容医療市場規模推移>
2009年248,200百万円
2010年238,400百万円
2011年261,000百万円
~
2014年283,300百万円
~
2017年325,200百万円
【市場トレンドの要約】
脱毛特化型医療施設が急成長している。人材確保問題が顕在化している。マーケティングがリアル重視からネット重視にシフトしている。
【市場展望の要約】
市場は今後も拡大基調であり、特徴は3点。1)非外科的施術へのより一層のシフト、2)美容皮膚科を標榜する医療施設の増加、3)美容内科領域を拡大する医療施設の増加。
美容内科の療法には、点滴治療、ホルモン補充療法、血液バイタル療法、PRP療法、高濃度ビタミンC注射、レドックス療法、腸内フローラ移植療法などがある。
【おわりに、の要約】
美容医療の市場には大きなビジネスチャンスがあり、今後も医療品メーカー、化粧品メーカー、医療機器メーカーが新規参入するだろう。
マーケティングの方向性がつかみやすくなる
このマーケティングレポートは、簡易版でありながら業界関係者が知りたい内容はしっかり盛り込まれています。
このマーケティングレポートのハイライトは、1)市場規模の具体的な数字が示されている、2)市場規模は拡大するがさらに非外科的施術が主流になる、3)美容内科が拡大する-の3点です。
これだけで、医療品メーカー、化粧品メーカー、医療機器メーカーの経営陣は投資拡大を検討する準備に入ることができます。
もちろん実際に投資するのかどうかの判断や、投資する場合の投資額の見込み額は別途リサーチが必要になります。
しかし、このマーケティングレポートだけで社長は、「投資を検討しなければならないかもしれない」と心づもりすることができます。
つまりこのマーケティングレポートがあるだけで、社内で本格的に行うことになるマーケティングの方向性がつかみやすくなります。
信憑性に注意しよう
矢野経済研究所の有料版のマーケティングレポートは、例えば「2019年版 ポイントサービス・ポイントカード市場の動向と展望」はA4用紙230ページで、価格は税込み194,400円となっています。
この金額で基礎的マーケティングを省略できると考えると「安い」といえるでしょう。
マーケティングレポートには、無名の会社の無料版がネットにあふれていますが、十分注意してください。マーケティングレポートを使って経営判断を行ったり、基礎的マーケティングに代えたりしようとする場合、情報の信憑性が重要になってきます。
重要な情報は「それなりのお金」を出さないと手に入れることができない、と思っておいて間違いないでしょう。
自社のマーケティングレポートをつくってみよう
それでは次に、企業の社員マーケターが自社のマーケティングを行ったときに、マーケティングレポートを作成する意義について考えてみます。
経営陣に重宝される
マーケティングレポートは、読みやすく編集され、かつ有益な情報だけをピックアップしているので、経営陣に重宝されるでしょう。
社長や役員や部長たちも、経理部や財務部が作成した「数字だけの資料」は読みづらいと感じています。
一方、マーケターたちが作成するマーケティングレポートは、数字に加えてプレゼン要素も含まれています。また、消費者の反応や取引先の動向も「つまびらかに」記載されているので、社長たちは興味深く読み進めることでしょう。
営業・販売部門、財務部門も活用できる
また自社のマーケティングレポートは、営業部門、販売部門にも喜ばれるはずです。なぜなら営業や販売の従業員たちは、普段から顧客と接していますが、マーケティングの視点で現場を眺めているわけではないからです。
マーケティングレポートのような、客観データで俯瞰した報告書は業務に直接役立ちます。
また、財務部門の従業員も自社のマーケティングレポートを熟読するでしょう。財務担当者は投資に関わる資料を作成しなければならないため、業界展望や自社展望が記載されているマーケティングレポートは重要資料になります。
また資金調達のときも、マーケティングレポートがあれば金融機関を説得できるかもしれません。
5部構成をベースにする
マーケティングレポートの構成は、先ほど紹介した5部構成でいいでしょう。再掲しておきます。
「前文」「自社業界の市場規模推移」「市場トレンド」「市場展望」「おわりに」
自社のマーケティングレポートは、最低でもA4で50ページは作成したいところです。その場合、次のようにページ配分してはいかがでしょうか。
・前文の部:3ページ
・自社業界の市場規模推移の部:12ページ
・市場トレンドの部:12ページ
・市場展望の部:20ページ
・おわりに、の部:3ページ
自社向けマーケティングレポートであれば、経営陣や財務部門が知りたいのは「うちの会社は今後どうなるのか」だと思います。それで「市場展望の部」を手厚くしています。
ただこのページ配分は目安ですので、実際に作成するときは自社のニーズに合わせて変えてみてください。
エビデンスは「しつこく」示そう
マーケティングレポートではエビデンス(証拠、根拠)にこだわりましょう。エビデンスは数字で示す必要があります。そして数字は、出典を明らかにしなければなりません。
例えば、「ライバル各社が業績を落とすなか、弊社は唯一増収増益を続けている」と書いたら、1)ライバル各社はどの会社のことをいっているのか、2)ライバル各社の直近3年の売上高と純利益の推移はどうなっているのか、3)自社の売上高と純利益の推移はどうなっているのか、を明示しなければなりません。
数字は新聞やネット情報などの2次情報や3次情報では「弱い」でしょう。企業のIR情報や監督官庁の統計データなどの1次情報を集めましょう。
マーケティングレポートを読む人は、「なぜそのように言い切れるのか」を知りたがっています。読者が疑問を抱かないように、マーケティングレポートの執筆に使ったエビデンスはすべて記載しておきましょう。
そして表とグラフを積極的に挿入してください。数字の羅列より、表やグラフのほうが一覧性があるからです。
「見立て」や「感想」も大切
ただ、数字に基づいた記述だけでは、興味深い文章になりません。そこで、筆者の見立てや感想も「少し」盛り込みましょう。
その際、「これはエビデンスがない見立てになるが、複数の市場関係者は次のように証言している」といった断りを入れましょう。
まとめ~社史に使われるくらいのクオリティを目指す
マーケティングレポートは、業務に使ってよし、作成してよしの、貴重なビジネス文書です。
マーケティングレポートを読み慣れるようになると、仕事に必要な情報を素早く入手できるようになります。
またマーケティングレポートの作成を任された人は、「社史の資料になるくらいのクオリティを出す」気持ちで取り組んでください。マーケターとして、またリサーチャーとしての腕の見せ所です。
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<参考>