みなさんは、市場規模を意識して仕事をしているでしょうか。
大きな市場でビジネスをすれば、大きな売り上げと大きな利益を得るチャンスが広がります。
しかし、その市場のプレイヤーが多ければ「分け前」は減るので、期待していたほどの利益は得られません。
市場規模を知ることはビジネスの方向性を決めることにつながります。
市場規模を把握することの意義と、市場規模の金額の算出方法を紹介します。
市場規模とは?そもそも市場とは
市場規模とは、特定の業界、特定の商品、特定の分野の規模を表すものであり、1年間の売上高の総和で表されることが一般的です。
例えば、日本自動車工業会は「2016年の自動車産業の規模」を次のように公表しています(*)。
・出荷:50兆円
・生産:920万台
・雇用:530万人
・設備投資:1.5兆円
・輸出:15兆円
*:https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seizou/jidousha_shinjidai/pdf/001_01_00.pdf
つまり、自動車業界の市場規模は50兆円です。
日本の自動車業界で最も大きな企業はトヨタ自動車であり、その年間売上高は大体30兆円。ホンダが15兆円、日産が12兆円とこの3社だけで57兆円になります。
スズキやマツダなどのメーカー各社の売り上げ額から自動車以外の売上額を差し引いて計算すると「大体50兆円」とわかります。
身の丈に合った市場規模を知る必要がある
さて、「自動車業界の市場規模は大体50兆円」と紹介しましたが、この数字は「誰が」使うのでしょうか。
あるベンチャー企業が自動車市場に参入しようとしても、まさか新たに自動車メーカーを立ち上げようとは思わないでしょう。
そうなると、そのベンチャー企業のCEOにとっては「自動車市場規模50兆円」という数字は大雑把すぎて役に立ちません。
むしろ「設備投資:1.5兆円」「輸出:15兆円」といった数字のほうが、そのベンチャー企業にとっては重要になってきます。
「自動車業界の設備投資の規模が巨大なので、参入メリットがありそうだ」と考えることもできますし、「自動車輸出に関わる企業にソリューションを提供しよう」と判断することもできます。
国内には少なくとも179の市場がある
このように、仕事で市場規模を把握する場合、自社や自分のビジネス規模に見合った市場を調査しなければなりません。
例えば、日本経済新聞出版社が発刊している「日経 業界地図」には、179業界が紹介されています。つまり、日本には少なくとも179の市場があるということです。
「日経 業界地図」では「電機・精密・通信」市場のなかに「AV・デジタル家電」市場、「デジカメ・ビデオカメラ」市場、「液晶パネル」市場などを含めています。
そして「AV・デジタル家電」市場というくくりでも大きすぎれば、「薄型テレビ」市場や「照明」市場といったように、さらに細分化した市場の規模をリサーチする必要があります。
市場規模を意識して仕事をするメリット
市場規模を意識して仕事をするメリットは、意識せずに仕事をするデメリットと一緒に考えると理解が進むでしょう。
市場規模は「商売の大きさ」と言い換えることができます。
市場規模が大きいということは、参入チャンスが広いということです。
したがって、新規事業を考えている企業は、まずは大きな市場に参入できるかどうかを検討するといいでしょう。それが無理だと判断したら、ニッチ市場を吟味しましょう。
また、市場規模がわかれば、自社のシェアから将来の売上高や利益を予測することができ、それがわかれば、いくらくらい投資できるかがわかります。
すなわち市場規模の金額は、経営戦略に大きく関わってくるのです。
市場規模を意識せずに仕事を始めてしまうと、シェアが高いのに、顧客の評判は上々なのに「なぜか儲からない」状態に陥る可能性があります。
また小さな市場なのに広告宣伝費にお金をかけてしまうと、コスト回収に苦労するでしょう。
例えば、湖に巨大タンカーを持ち込んでも、搬送効率は上がりません。
また、太平洋をスワンボートで横断するのは無謀です。
それと同じようにビジネスでも、市場規模に見合った戦略を練る必要があります。
そのためにも常に市場規模を意識した仕事をしたほうがよいのです。
市場規模を調べるには?
市場規模を調べる方法は、大まかに3つあります。
<業界団体の統計>は、先ほど紹介した、日本自動車工業会が公表した「2016年の自動車産業の規模」の「出荷:50兆円」といった数字のことです。
日本の主な産業の業界団体は大体、市場規模を算出して公表しています。
<国の経済統計>は、省庁などの行政機関が独自に調査する場合と、行政機関が業界団体にヒアリングして公表する場合とがあるものです。
市場規模が拡大している業界は雇用を生み、多額の税金を納付し、GDPや国力を押し上げるので、政府も市場規模に注目しています。
<市場調査会社の調査報告書>は、民間企業が独自に調査し、公表しているものです。
精度が高い調査報告書は有料で販売されています。
また、事業会社が「正味の市場規模」を知りたいとき、市場調査会社に依頼して「正確な市場規模」を算出してもらうこともあります。
フェルミ推定で市場規模を出す
先ほど「自動車業界の市場規模は大体50兆円になりそう」と紹介しましたが、「大体」や「なりそう」というあいまいな表現を使ったのには意味があります。
市場規模の算出は、厳密に行わなくてもよい場合があります。
その理由は、市場規模の金額は資料に使われることが多いからです。
例えば、市場規模を知りたい人の中には、「5兆円なのか50兆円なのか知りたいが、50兆円でも51兆円でも構わない」と考える人がいます。
1兆円の差はとても大きいのですが、その人にとっては「誤差の範囲内」なのです。
一方、決算や確定申告で使われる金額は、法律や税金に関わってくるので「超厳格」でなければなりません。
決算や確定申告の数字に比べると、市場規模の金額ははるかにアバウトでもよいのです。
そこで、市場規模を算出するときに使われるのが、フェルミ推定という計算方法です。
フェルミ推定のフェルミは、この計算方法を考案した物理学者の名前であり、「推定」とあるとおり、アバウトに市場規模をとらえます。
市場規模の単位は「円」であり、厳密に数えることができますが、「兆円」規模のお金を数えることは困難なため、フェルミ推定ではあえて「円」を数えず、推定します。
例えば、日本のマンホールの数を知りたいとき、マンホールを1個1個数えることは理論上は可能ですが、実際は不可能です。
そこでフェルミ推定を使います。
その計算過程は以下のとおりです。
A:全国約1,700の市区町村の1平方メートル当たりの「平均マンホール数」を調べる
B:各市区町村の面積を算出する
この2つを求め、「A×B」を計算すれば、日本のマンホールの数の概数がわかります。
調査項目を増やしていけば、精緻な概数を出すことができます。
例えば以下のとおりです。
a:各市区町村の面積を、都市部、住宅街、郊外、その他にわける
b:各市区町村の都市部、住宅街、郊外、その他の面積を算出する
c:各市町村で、「都市部の1平方メートル当たりの平均マンホール数」「住宅街の1平方メートル当たりの平均マンホール数」「郊外の1平方メートル当たりの平均マンホール数」「その他の1平方メートル当たりの平均マンホール数」を算出する
「b×c」は、先ほどの「A×B」とは異なる数字になりますが、近い数字になります。
そして「b×c」のほうがより確かな数字でると推定できます。
フェルミ推定では、概算の正確さを3段階用意しています。
・数時間から1日で調査が終了する暫定試算
・数日から1週間で調査が終了する初期試算
・1週間以上調査する精緻試算
概算の正確さが向上すると、資料としての信頼性が高まりますが、調査コストも高くなります。
市場規模をフェルミ推定で算出するとき、資料を使う人(経営者や決裁者)がどの程度の正確な数字を求めているのかを、調査する人(社員や調査会社)に明示することが必要です。
まとめ~「大づかみ」を癖にする
一般社員から管理職なったり、管理職から役員になったり、役員から社長になったりするたびに「大づかみ」する習慣を強化することが必要です。
年間30兆円を売り上げる企業のトップが、ビジネスを300万円単位でとらえていては、毎年10,000,000個のビジネスを管理しなければなりませんが、それは不可能です。
(30,000,000,000,000÷3,000,000=10,000,000個)
市場規模も「大づかみ」することに意味があります。
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<参考>
- 自動車新時代戦略会議(第1回)資料(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seizou/jidousha_shinjidai/pdf/001_01_00.pdf - 市場規模等の定量的な検証第2節第2節市場規模等の定量的な検証(総務省)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/pdf/n2200000.pdf - 市場規模を調べたいときに当たるべきソースとは?(ダイアモンドオンライン)
https://diamond.jp/articles/-/133449 - 新規事業の市場規模を見積もる方法(プレジデントオンライン)
https://president.jp/articles/-/22515