現代ほど、企業が「市場との会話」を必要とした時代はなかったはずです。それは企業の力が相対的に弱まったためです。企業の代わりに市場を席巻しているのは消費者です。
インターネットやSNSの普及により、消費者は、情報やコンテンツを入手することも、情報やコンテンツをつくりだすことも無料または超低額で行えるようになりました。そのため一般消費者にビジネスの力が身について、企業を介さず事業に参画できるようになったのです。
したがって企業は市場と会話することによって、市場が求めるニーズとウォンツを把握して、消費者が有料でも購入したくなる商品やサービスや情報やコンテンツを生み出していかなければなりません。
しかし市場と会話しようにも市場は巨大で流動的なため、「とらえどころ」がありません。そこで市場分析が必要になります。
市場分析をすることで、とらえどころがなくつかみづらかった市場を把握できるようになります。市場分析の意義と手法を紹介します。
市場分析とは何か「それで何がわかるのか」
市場分析の最終目的は売上増や利益増となります。しかし一気に「市場分析→売上増」とは飛びません。つまり、市場分析をしなければ売上増の達成は難しいのですが、市場分析をしたからといって売上が急に拡大するわけではありません。
では「市場分析→(?)→売上増」の「?」には何が入るのでしょうか。
市場分析はマーケティングの資料になる
「?」のなかには、企業活動が入ります。つまり「?」にはたくさんのものが入るわけです。
そこで本稿では、多数の「?」のなかから、マーケティング、経営戦略、「無駄弾」の3つに焦点を当ててみます。
市場分析はマーケティングの資料になります。マーケティングは、売上目標と実績の間にあるギャップを埋めるために行います。マーケティングを始める前に「売上を2倍にする」や「顧客満足度を上げる」「ブランドを構築する」といった目標を立てると思います。
マーケティングについてはアカデミックな研究が進み、企業も積極的に最新のマーケティング手法を取り入れています。しかしマーケティング手法を更新しても、売上を拡大させているのは一部の会社に限られます。
つまり多くの企業がマーケティングに失敗しているのです。
売上目標と実績の間のギャップを埋めることは容易ではありません。
マーケティングの失敗の要因は企業によって異なりますが、「前提となるデータ」の間違いも大きな失敗要因のひとつです。
市場分析を行うことで、前提となるデータの確度が上がります。つまり市場分析はマーケティングの成功確率を高める効果があるのです。
市場分析は経営戦略を構築するときの資料になる
経営者や事業部長は、経営戦略や事業戦略を構築しなければなりません。しかし経営者や事業部長が市場と会話できていないと、その戦略は正しいものにはなりません。
企業の市場分析担当者はあらゆる手法を駆使して市場情報を入手して分析してレポートを作成しなければなりません。そして、経営者や事業部長は自分たちが「知りたい情報」を、市場分析担当者に的確に指示しなければなりません。
経営戦略や事業戦略の構築は、仮説を立て、調査して、予測して、確証を得てつくる、という過程を経ます。経営者や事業部長が仮説を立てたり予測したりするのに、市場調査レポートが必要になります。
したがって市場調査担当者も、指示を受けた情報を集めるだけでなく、経営者や事業部長が「何を考えているのか」「何を求めているのか」を把握して、それに役立つ調査・分析を実施しなければなりません。
市場分析をすれば「無駄弾」を撃たなくてよい
ビジネスはときに「戦場」といわれます。その比喩を使うと、ビジネスでは「無駄弾」が多くそれが高効率化や高生産性を阻んでいます。
ビジネスの無駄弾には、無駄な投資や無駄な人材確保や無駄な開発や無駄なマーケティングなどがあります。
このような無駄弾は、後から振り返ると「撃つ必要はなかった」とわかることが大半です。そして、そのように反省できればよいほうで、無駄弾を多く撃ちすぎると企業の資源が枯渇して倒産してしまいます。
「撃つ必要がなかった」とわかるのは、市場を見渡したときです。つまり、投資や人材採用や開発やマーケティングを行う前に市場分析をしておけば、事前に「無駄弾になるから撃つのはやめよう」と判断できるようになります。
市場分析の代表的な分析手法
市場分析の手法には、主に次の4つがあります。
これらをフレームワークと呼ぶことがあります。つまり市場を、市場分析手法の枠(フレーム)のなかに入れて観察するわけです。
1つずつ詳しくみていきましょう。
3C分析
3C分析の3つのCとは、カスタマー(顧客)、コンペティター(競合他社)、カンパニー(自社)のことです。
市場はこの3つのCによって構成されていると考え、それぞれを調査・分析していくのが3C分析の特徴です。
顧客を分析するときは、購買人口、購入までのプロセス、購入頻度、購入決定者、購入者と利用者の違い、潜在顧客の探索といった視点を持ちます。
例えば購買人口ですが、単価が低い商品でも、3C分析によって購入する人が多くいることがわかればビジネスとして成立するので、経営者は「ゴーサイン」を出すことができます。一方で、どれだけ熱心なファンがいても顧客の絶対数が少なければビジネスとしては成立しにくいので、経営者は販売を中止する決断を迫られるかもしれません。
また3C分析で購入者と利用者が違うケースが多いことがわかったら、利用者の快適性を追求する一方で、購入者への訴求を強化しなければなりません。例えば赤ちゃん用紙オムツメーカーは、もちろん「赤ちゃん目線」に立つことも求められますが、それは開発陣に任せ、マーケティングチームは「お母さん目線」を持つ必要があります。購入決定者は母親であることがほとんどだからです。
競合他社を分析するときは、他社の強みや弱み、シェア、売上規模、投資状況などを分析します。もし自社が市場で3位のポジションであれば、1位企業や2位企業を徹底的に分析し「真似をするのか逆張りをするのか」を決める必要があります。
3位企業が1位2位企業の真似をすれば売上を確保できますが、社員のモチベーションは高まらないでしょう。一方で、1位2位企業がやっていないことをやれば(逆張りをすれば)、リスクは大きいのですがヒットすれば市場でトップに躍り出ることができるかもしれません。
自社を分析するときは、競合他社分析と同じ視点で行います。そのようにしないと、「自社と他社の差」がみえないからです。自社の審査は甘くなりがちで、それでは有効な調査結果は得られません。
マーケターは、他社を分析するときはよい点を、自社を分析するときは悪い点を特にみていく必要があるでしょう。
PEST分析
PEST分析は外部環境を分析するときの手法です。
外部環境といっても調査対象は「無限」にあるので、PEST分析ではポリティカル(政治面)、エコノミック(経済)、ソーシャル(社会)、テクノロジー(技術)に焦点を当てます。
ビジネス規模が小さいうちは政治を気にする必要はありませんが、事業規模が拡大し市場への影響力が増してくると、経営者は政治や法律に配慮しなければならなくなります。
政治には経済を推進するモチベーションがある一方で、抑制的に働くこともあります。例えば大きな社会問題が起きると、政治は企業活動を制限しようと動きます。
そして法律は原則、企業活動を規制したり抑制したりします。法律は「国民の味方」なので、企業が消費者の利益を損なう動きをみせると、法の執行機関は企業を規制します。
経済情勢の分析は、景気の波を把握するときに必要になります。例えば好景気が到来しそうであれば、高付加価値の高価格商品を開発しなければなりません。好景気が到来してから開発に着手しては遅いのです。
したがって実際は、不景気のときに高付加価値の高価格商品の開発に着手することになります。経営者はときに、周囲の反対を押し切り研究開発費に投資しなければなりません。その決断の根拠になるのがPEST分析のうちのE分析となるわけです。
社会分析は特に重要になっています。インターネット上の「炎上」を招けば、その商品やサービスに害や欠点が「あろうとなかろうと」事業の縮小や撤退を迫られることになりかねません。企業は社会を分析し、そしてある程度は社会をコントロールしていく必要があります。
技術分析の重要性はいうまでもないでしょう。最新技術だったインターネットやITはいまや、IoT(ネットとモノ)やAI(人工知能)に進化しています。
技術については、新技術を搭載した商品やサービスをつくる視点を持つだけでは足りず、社内インフラの高度化を図らなければなりません。
日本企業は今、労働者不足、人材難、働き方改革による労働時間の減少、同一労働同一賃金制度による賃金上場圧力など「成長の足かせ」を多く抱えています。このような諸課題を克服するには、社内インフラを常に最新のものに更新して生産性を維持したり高効率化を図ったりしなければなりません。
SWOT分析
SWOT分析は企業が事業戦略を練るときに役立ちます。ストレングス(強み)、ウィークネス(弱み)、オポチュニティ(機会)、スレット(脅威)に注目します。
分析対象は自社と外部環境になります。したがって自社のSWOT分析と外部環境のSWOT分析を同時並行で実施することになります。
ファイブフォース分析
ファイブフォース分析は、3C分析やPEST分析などで得た結果をさらに詳しく分析するときに用います。
フォースとは「力」です。5つの力とは、「買い手の交渉力」「売り手の交渉力」「新規参入者の脅威」「競合他社の脅威」「代替商品・サービスの脅威」です。
買い手の交渉力と売り手の交渉力の強さは反比例します。競合他社が強ければ、買い手(消費者)は自社製品を選ぶ必要がないので、自社(売り手)の交渉力は弱くなります。売り手(自社)の製品やサービスは買いたたかれることになり、利益が出なくなります。
しかし競合他社がなく、新規参入者の脅威も代替商品・サービスの脅威者なければ、売り手(自社)の交渉力が強まり価格決定権を得ることができます。そうなれば利益を増やすことができます。
ファイブフォースを分析することで、値下げや値上げのタイミングや投資判断などが的確に行えるようになります。例えば、「新規参入者が増えてきたから大幅値下げを断行してシェアを拡大させよう」と考えたり、「代替商品が出回ってきたので自社製品の付加価値を上げるために開発費を増強しよう」と決めることができます。
まとめ~敵と自分を知るための分析
市場分析と聞くと、分析対象は「市場」と思いがちですが、市場のなかには「自社」が含まれていることを忘れないようにしてください。
つまり「市場はこうだ」「では自社はどうする」ということを考えるために市場分析を行うのです。
自社のことは「分析するまでもない」と思わないようにしたいものです。まずは資料を集めやすい自社から徹底的に分析していきましょう。
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